変な姉だが……

桐山 なると

なんか、姉ちゃんがぐったりしてる


「ただいまー」


「……んー」

 高校から帰ると、姉ちゃんがなんかぐったりしていた。

 

「姉ちゃん?」

 どうした、姉ちゃん。いつもソファにいる姉ちゃんが、食卓の椅子に座っている時点でもう異常事態なのに、なんかこう、ぐんにゃりしてるじゃないか。


 制服のままテーブルにつっぷし、右腕をはかりの上に乗せながら、長い髪を扇のように広げる姉ちゃん。


「熱でもあるの?」

 尋ねると無言で首を振る。

「頭痛い?」

「…………」

「お腹痛い、とか?」

「……………」

 じゃあ、どうしたんだ。姉ちゃん。


 好きな人にフラれたか? 誰かに 虐められたのか? 変な男に襲われたのか? 

 姉ちゃんは何も答えず、ただ机に突っ伏している。右腕をはかりの上に乗せながら。


 触れれば壊れそうな姉ちゃんを、わずかでも傷つけないようにゆっくりと向かいの椅子に腰を下ろすと、


「……1.8か」

 入れ替わるように、むくりと姉ちゃんが起き上がった。

「何が?」

「……重さが」

「重さ?」

 いったい何をしているんだ、姉ちゃん。

「うん、ちょっとね………」

 ちょっと?

「………右腕の重さ測ってた」

 マジか、姉ちゃん。


 なにやってんだ、姉ちゃん。なんでそんなもん測ってるんだ。なんで右腕の重さが知りたいんだ。服も着替えずにやることか。他にやることあるだろう。そもそもそのやり方じゃ測れないだろ等々、いろんな思いが頭の中を駆け巡り、


「……………そうか」

 たった一言に凝縮されて口から出てきた。

 伊達に16年も弟をやってるわけじゃないから、僕は知っている。姉ちゃんには何を聞いても無駄なのだ。

「お前も計る、腕?」

「いや、いいわ……」

「あ、すごい。左手は2.7キロもある」

「そうか……」

「やっぱり利き手の方が重いのか、人間って」

 そんなわけないだろう。

「不思議だなあ、人間って」

 姉ちゃん右利きだろ。


 うちの姉ちゃんは、ちょっと変だ。



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