いちばんとおいばしょ

01

 「いつまでも変わらない2人でいよう。」それが彼のプロポーズの言葉だった。

 

 今日も変わらず3年前の結婚式の写真が玄関に佇んでいる。それは自らを主張するわけでもなく、埃を被るわけでもなく。あってもなくても、その場の空気が変わらないくらいの存在感でそこに、ある。

飾った本人の意思が宿っているからか。確かにその写真は世間的には「幸せ」の象徴であっても、私たちにとっては「みんな、そうしているからそうした」というまでのものだ。

 まるで私たち夫婦の生活のようだ。お互いを認めながらも、作業のように朝食をとり、お互い仕事場に向かい、終業後は真っ直ぐ家に帰り、向かいあって食事をして、寝る。誰かに定められたルールに則るかのように。

この生活に不満があるわけではない。むしろ、私にとっては今が「理想の生活」だ。刺激がない代わりに安定した不安の少ない人生。


            安定して、なにもない。


 私たち夫婦が仕事に出かけている間のリビングルームのように、私たちの関係は日の光や時々の曇りを眺めるだけで、自分たちの間の温度はほとんど変わることはない。外に出て直接風を頬に感じるようなことはないんだろうと、毎日通勤電車のなかから思う。


 春の始まりの涼しい風に足首を触られながら、いつものように階段を使い、デスクに着くと、同期がスマホの記事らしきものを熱心に読んでいた。彼女はマラソンが趣味で何か月か前には市民マラソン大会に出場し練習不足にも関わらず一般女性としてはそこそこ優秀な成績を残したらしい。階段を使うのも、マラソンの練習不足を解消するために一緒に始めたことだが今となっては私だけが続けている習慣となっている。同期の彼女は最近は、スピリチュアルに凝っているらしくアウトドアは派らしく週末はパワースポット巡りをしたり、会社帰りに都内の天然石アクセサリー屋を回るのが好きだと休憩時間に話していた。

 時々、夫や家のことを会社で話すことがあるが、彼女によると「玄関に写真を置くのは風水から見ると悪い気を呼び込む」らしい。







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