第18話 ジャイアント
クダリ石墓群からは次々に爆発音が響いてくる。
その中へとイヌガミは再突入していく。
入って少し走ったあたりで、石墓の陰に傭兵団のグソクたちが潜んでいるのを目撃した。謎の爆発から避難しているのかもしれないが、十人もいる割には妙に大人しい動きだ。
傭兵団をおいて奥へと入っていく。
爆発から狙われにくいよう、立ち並ぶ石墓の隙間を通りながら進む。
奥に進むにつれて石墓は高くなっていき、道路も広くなっていく。
道路が広いとそこを走り回るリビルドの数が増えて危険度も高くなる。
壁伝いに進んでいたところで、リビルドたちが爆発から逃げようとして大通りで渋滞しているところを目撃した。
道路にぎっしり詰まったリビルドたちの中にいきなりの爆発。直後に風切り音。
爆発音の煙が晴れるとそこにはリビルドの残骸が転がり、道路にもクレーターのような大穴が開いている。
マサキが複合センサーの検出データを確認して、
「直前に鉄塊が超音速で飛来しています。爆発現象はこれによるものだと思います!」
「ここのリビルドにはそうした能力を持つ奴がいるのか?」
「聞いたことがないよ」
アオイが答える。
強力な砲撃手段を持つ未知の存在が相手か。
今後の安全を守るためにはどんな相手なのかを調べねばならないが、イヌガミに危険が及ぶ。
「どこから飛来したのか計算できないか?」
「中央部から飛来しているようです。近づいてもっと観測できれば精度を上げられます。
「お姉ちゃん、石墓群の中央まで行って戻ってきた猟師はいないって聞いたよ。無理しないで」
「大丈夫、上手くやります!」
「くれぐれも気を付けろよ」
イヌガミはなるべく石墓を盾にしながらも中央部へと進む。
爆発音に混じって地響きも聞こえてくるようになった。
爆発による地響きかと思ったが、別々に響いてくる。どうやら異なる現象のようだ。
この奥では一体どんなことが起きているのか。
細い路地を曲がったところでテツジの重グソクに遭遇した。腕や足に人間をぶら下げ運んでいる。
見るとスパイダーの乗員たちだった。
スパイダーから脱出した後にテツジが拾ったのだろう。
「許してくれ」
「見逃してくれ」
口々に謝ってくる。
マサキはため息をついて無視。
テツジが呆れた感じで、
「スパイダーがやられているところに行き会ったら泣きつかれてさ。寝覚めが悪いから拾ったんだけどよ。スパイダーからミスリウムやらオリハルコニウムやらが、やたら大量にこぼれてたんだよ。お前ら、あれはなんだんだ」
背高組たちは言いづらそうに、
「狩りの成果でして……」
「さっさとやられたお前らがそんなに貯められるわけないだろ」
テツジはマサキに、
「そういうわけで俺はいったん戻る。スパイダーの残骸は気持ち悪いから審判に報告しとくぜ」
「わかりました」
テツジと別れてさらに中央部へと進む。
連なる石墓は高さを増していき、今や高さ二百メートルを超えている。
地響きがより強くなってきた。
繰り返される砲撃で弾道計算データが集まる。
「弾道計算が収束しません。原点は動いているようです」
「地響きも近づいてきているみたいだな」
高層ビル級石墓の向こう、高さ三百メートルの彼方に何かの動きが覗く。見間違いか? 三百メートルの高さだぞ?
そこに爆炎が生じた。砲撃だ、撃たれた!
飛来した超音速鉄塊をぎりぎりでかわす。
すぐ後ろの道路に着弾、爆発!
生じた爆風を利用し、あえてイヌガミは前に跳ぶ。
調べるには前進するしかないのだ。
一気に百メートルを跳んで着地、そのまま突進して次の砲撃までに距離を詰める。
「砲撃原点、高度三百三十メートル、前方四百メートル、見えました!」
石墓の群れを抜けて、とうとうセンサーから露わに捉えられたそれを俺たちは見上げる。
俺は光学センサーを疑った。
俺にはそれが元の世界で見知った建物にしか見えなかったのだ。東京都庁、ツインタワー。
いや、そのものではなかった。ツインタワーの下部は足になっていた。その分、本来よりも百メートルほど高くなっている。
両横には腕も生えている。
「ツインタワー・ジャイアント・リビルド! 伝説の巨人、本当にいたんだ!」
アオイが叫ぶ。
ジャイアント・リビルド、高さ三百メートルを超えるツインタワーの巨人だ。
これが歩くたびに地響きを起こしていたのだ。
ジャイアントの足取りは怪しい。
傾いて二百メートル級の石墓にぶつかる。石墓はきしむ音を立てながら倒れていく。
ジャイアントが腕を振り、石墓をえぐる。無数の破片が飛び散る。
道路にいるリビルドたちがパニック状態で逃げ惑う。
ジャイアントは闇雲に暴れているようだ。
このせいでクダリ石墓群からリビルドの群れがあふれてきているのだろう。
ジャイアントのその最上部にはいくつもの大穴が開いていた。深く傷ついているようだ。
オオオオオオオオ!
響き渡るはジャイアントの唸り声。苦しみの叫びに聞こえる。
ジャイアント最上部の穴、そこにまた爆炎が生じる。砲撃が来る!
イヌガミはダッシュしてかわす。
このまま進めば上からの砲撃に対しては死角に入る。
そう予測したのに砲撃が続く。
見上げると最上部の大穴が増えていた。
最上部にいる何かはジャイアントに穴が開くのを気にせず砲撃しているのだ。そしてジャイアントは傷つき苦しんでいるようだった。
ジャイアントは内部に寄生されているということか?
オオオオオオオオオオ!
ジャイアントが苦悶の叫びを上げる。
続く砲撃をかわしながらイヌガミはジャイアントの最下部に取り付く。四足の走行モードで爪を壁に刺しながら登っていく。
砲撃者はジャイアントが傷つくことをまるで気にせず撃ち下ろしてくる。砲撃はジャイアントの壁を深くえぐっていく。
イヌガミは横っ飛びを織り交ぜて砲撃をぎりぎり回避しながら垂直に駆け上がる。
高度三百三十メートル、遂に砲撃者のフロアにまで到達した。
砲撃の合間を縫って傷だらけのフロアに突入する。
広いフロアの中央に砲撃者がいた。
俺はこいつを知っている。正確にはこいつの原型を。
二百ミリもの前面装甲、当時のあらゆる戦車を撃破しうる高性能な主砲、そして史上初のハイブリッド動力車両。
「ドイツ軍重駆逐戦車エレファント、そのハイブリビルド!」
砲撃していたのはこの重駆逐戦車だ。
ジャイアントがおかしくなっているのは、こいつが内部から砲撃で破壊しているからだろう。
戦車のサイズは車で言えばトラックぐらい、だが重量は軽く数倍。分厚い金属の塊だ。
リビルドであることを示す六角形状の青い目が前面装甲に並ぶ。イヌガミをにらんでいるかのようだ。
ボディは角張った重装甲に覆われてイヌガミの爪でも貫けるかどうか。
無限軌道は例によって足にもなるようだ。
大問題なのは強力な主砲。この世界にはないと思っていた火薬式の砲を備えている。想定外の武器にイヌガミで対応できるか?
エレファントは主砲をイヌガミに向けながら無限軌道でゆっくりと前進してくる。
その前面機関銃が火を噴いた。
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