第3話 初陣
四本足をわさわさ動かしながらエッグイーターが迫ってきている。
大型重機が襲ってくるだけでも恐ろしいのに、掲げる双腕は見上げる高さ、プレッシャーだ。
俺はアオイの前に出る。
「ドラゴンの雛だ!」
アオイが叫ぶ。
俺のことか。もうちょっとカッコよく呼んではもらえないか。
ともかく交戦準備。
光学センサーで三次元スキャンを開始。
この空間をマッピングして把握する。天井まで最高で十六一七四三…… このスキャンデータは細かすぎるな、約十六メートル。
幅五十メートルの奥行きは三百メートル、取り囲んでいる物質は鉄か。
無数の溝が走っており、巨大な鉄の中を曲面状に穿った空洞のようだ。
天井と双腕の高さから見るに、おそらく作業したのはこのエッグイーター、奴の巣なのだろう。
大気センサーによると温度は十度、大気組成はごく普通、呼吸は問題なさそうだ。俺は呼吸しないけど。
光学センサーを使ってエッグイーターも精密スキャン。
三次元形状をモデリングして把握。
熱分布も分析、表面温度は大気温度とほぼ同程度でほとんど機体からは熱を発生していないということになる。恐るべきステルス性能だ。
見た目が重機っぽいからといって、内燃機関では動いていないのだろう。アルティマビルドの通りであれば、こいつも高効率な転換臓から得たエネルギーで各部を動作させている。
やつの攻撃手段は、双腕による打撃、腕先端のクロウとハサミ、口吻部のドリル。
ここまでの分析を瞬時に終わらせる。さすがの処理速度だぜ。
おっとうっかりしていた、俺自身を測距する。
製造途中で殻から出てきてしまったため、本来装備しているはずの装甲は頭部と胸部限定、大半のフレームが露出している。守りには期待できない。
機体の全高は二百十センチメートル、全備重量は二百三十キログラム……
え、高さ二メートルちょい?
いやそりゃ三メートルもない高さの卵から出てきたんだからそうかもしれないけど、俺は最強ロボットのつもりなデザインにしたわけですよ、それが人間サイズ?
アオイが着ている鎧よりも小さい!
そうだ……
急いで出てきたからに決まってる……
俺はこれから成長する発展途上のロボなんだ……
そんなショックを受けている俺の上からクロウが降ってきた。
エッグイーターが襲ってきたのだ。
慌ててかわす。
空気を切り裂いてクロウが通り過ぎる。
ステップ後退、鉄の床を滑ったソールが火花を上げる。
呆けてる場合じゃない。
俺はこれから非常に重要なことを確認せねばならない。
はたして俺はこのエッグイーターよりも強いのかだ。
弱ければ永遠にゲームオーバー。
俺の後ろにはアオイがいる。
これ以上は退けない。
ゾクゾクする。
最高だ。
ゲームじゃないスリル。
さあ俺のビルドを見せてやる。
俺がビルドしたこの機体の特徴は、もともとフレームに含まれていた翼の推進機構ウィングスラスターを機体の機動性向上に回したこと。
飛行よりも地上戦闘を選んだ理由は単純、俺が目指すのは地上最強のロボットであって戦闘機ではないから。
この機構は翼の前縁全体がエアインテイクになっており、翼内部に並ぶ筒状の電磁加速装置が空気をイオン化して高速噴出、推進力とする。
俺はこれを前腕サイドとふくらはぎサイドに配置した。
エッグイーターの双腕攻撃はパターンが読めた!
エッグイーターが双腕を構え直そうとする。
この間、エッグイーターは攻撃ができないってことだ。
俺は腕と足のウィングスラスターを全開に持っていく。
ウィングスラスターの後部可変ベクタードノズルから紫色のイオン噴射、甲高い音が鳴り響く。発生した推力が俺を飛ばす。
エッグイーターとの距離を一瞬で詰めて腹部の上に飛び乗る。
さきほどの計測によれば、エッグイーターの腕先は可動限界でここに届かない。死角ってやつだ。
俺は転換臓の出力を最大に持っていきながら打ち下ろしパンチ。
激突の瞬間、俺の機体に激しい衝撃。マニピュレータの指に破損が生じた。
だがエッグイーターの腹部に拳型のへこみができる。
いける、このまま打ち続ければ装甲を破れる。
そのときだった。
センサー全てから危険信号。
右ウィングスラスターだけ噴射して左に緊急回避。
刃が飛来。
俺の右マニピュレータを切り飛ばす。
刃が通り過ぎた後に叩きつけるような衝撃波が響く。
超音速で刃が通り過ぎたのだ。
床に落ちた俺は体勢を立て直しながらエッグイーターをチェック。
やつの左前腕先端から長い鎌が伸びていた。前腕に折りたたまれていたのであろう鎌を展開したのだ。
やつの腕は二関節だとばかり思っていたが、三関節の自由度があったということになる。
つまり双腕の攻撃に死角はない。
俺はにやりとした。
このエッグイーターを生み出した存在は神だか人だか知らないが、アルティマビルドで俺と戦うにふさわしいビルダーだ。工夫が楽しいぞ。
エッグイーターの鎌は反り返っていく。前腕先端の鎌付け根部分が板バネになっていて、鎌の先端部を右腕のクロウで引っ張ることにより後ろへと反っていくのだ。
限界ギリギリまで来たところで開放すればバネに蓄積したエネルギーで一気に鎌は走って音速を超えた斬撃となる寸法か。
これも面白い。やってくれる。
エッグイーターの狙いは俺に絞られたようだった。
俺を守ろうとしてか近づいてくるアオイに離れるようジェスチャーし、アオイから遠ざかるように動く。
エッグイーターは旋回して俺のほうを向く。
引き絞られた鎌はぴたりと俺を狙っている。
機体を水平に近く前傾。
ウィングスラスターの推力ベクターをそろえる。
後ろに一点集中でスラスター全力噴射。
最大効率の推力が俺を蹴とばす。機体は地面すれすれを跳ぶ。
俺の先端から衝撃波が発生、音速を超えた!
降りてくる斬撃よりも速く前足の一本に取りつき、そのままスラスター噴射。
エッグイーターのボディが大きく傾き、降りてきた鎌は床にぶつかって激しい火花を散らしながら折れ飛んだ。くるくる回って天井に刺さる。
前足に取りついてそのままひっくり返そうとする俺は、突然激しくバランスを崩して床を転がり滑った。機体各部が床にすれて傷だらけになる。新品なのに!
何事が起きたのかを俺は把握した。エッグイーターの前足がパージされている。
エッグイーターは三本足でも器用にバランスをとっていた。優秀なバランサーを装備していることに感心する。
右腕のクロウがパージした前足をつかんで再装着した。
ウィングスラスターは全力連続噴射をやらせすぎてオーバーヒート状態だ。
俺の機動性は大幅に落ちている。
そこに左腕のハサミが襲ってくる。
避けたところを右腕のクロウがつかんだ。
俺の胸部をクロウが挟んで締め付けてくる。
さらにクロウは俺を頭部の先へと運んでいく。
回転するドリルがゆっくりと迫ってくる。
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