誕生
第1話 リビルド
究極のメカビルドゲーム、アルティマビルド。
史上初、量子サーバーによってメカを原子レベルから再現し、ありとあらゆる素材でどんなメカでも構築できるのが売りの画期的なMMOオープンワールドゲームだ。
俺、建部健一はこのアルティマビルドのトッププレイヤーである。
もともとメカ大好きな俺はアルティマビルドが発表された瞬間から飛びついて、念願のリリース後は果てしなくやり込んできた。
アルティマビルドの世界にはお仕着せの設定がほとんどないと言われる。
実際、世界の初期設定がされた後はただルールに任されて、プレイヤーたちの構築するメカは独自の進化を遂げてきた。だからこの世界は未知の驚きに満ちている。
素材やメカニズムもプレイヤーの研究に任され、様々なメカがビルドされてきた。
俺もオリジナルメカを生み出しては実戦投入してきた。
今試しているのは地底探査機だ。
アルティマビルドの世界には様々なレア元素が存在し、その活用でメカを自在に駆動させることができる。
レア元素の中にもとびきりレア、誰も見たことがなく噂でしか知られていないアルティメットレア金属元素がある。
アルティウム。
俺たちプレイヤーが目指している大目標のひとつに、生きた機械を生み出すというものがある。
自ら判断し、行動し、増殖し、進化する。究極のメカ、機械生体だ。
アルティウムは機械に生命を与えることができると言われていた。
多くが世界中を探索し、しかしどこにも見つからないアルティウム。
だったら地中、星の核部分に存在するのではないかと俺は考えた。
この世界に生命を与えるような存在があるとすれば、世界の中心にあるのは自然じゃないか?
かくて俺は大量の素材と長い設計時間を投げうって耐熱耐圧のドリルマシンを開発し、単身で核を目指したのだった。
「徹夜になってしまったなあ、でもあと少し!」
俺はモニターに表示された深度計をにらむ。
「アルティウムを手に入れて、究極のロボットを作り上げる!」
俺のプレイヤーキャラは地底探査機に搭乗している。
もし地底で大事故でも起こせばシビアなこのゲームではキャラロストとなる。
それでもリモート操縦なんかではアルティウムを見つけても感激が薄くなってしまう。
俺はライブな体験を愛するハイテンションなプレイヤーなのだ。
いよいよ掘り進めている層の終わりが近い。
地中を映しているモニターはこれまでずっと真っ暗だったのが、うっすらと明るくなりつつある。
核からあふれているエネルギーだ。
この地底探査機は強靭な電磁シールドとレア金属元素のミスリウムによる超耐熱装甲に守られてはいるが、未知の核内部に耐えられるかどうかは試してみないと分からない。
「行くしかないぜ!」
掘削抵抗が増してきて、俺は地底探査機の出力を上げた。
力づくで突き進む。
パワーをオーバーブースト。
核までの距離は三、二、一、零!
モニターが煌めく光でいっぱいになる。
そうだ、遂に核を目の前にしているのだ。
「先に進めない?」
地底探査機は核に接触し、だがそこから先がびくともしない。
採取アームを伸ばすもやはり侵入できずに弾かれた。
「こうなったら爆破してでも」
探査機の爆弾倉を開こうとしたときだった。
「汝、始まりを求めるか」
頭の中に厳かな声が響いた。
このアルティマビルドにはVRモードもあるが、俺は多数の情報を参照しながら攻略するタイプなので複数のモニターを並べてプレイしている。
サウンド出力はサラウンドスピーカー、頭の中から声がするなんてことはありえない。
でも徹夜明けの俺は細かいことを気にせず、思いを口に出した。
「始まり、アルティウムのことか? だったら求めるぜ!」
「汝、始まりを求め再誕すべし。再誕を求め始まりに至るべし」
厳かな声が告げる。
それと共に地底探査機は核の内部へと進み始める。
モニターから光があふれる。
光は部屋中に満ちていく。
俺を光が包み込む。
「派手なエフェクトだぜ!」
テンションが高まりすぎた俺は事態の異常さを無視する。
「行くぞお!」
光に満ちた核の中に、なにかが見えてくる。黄金に輝く物体。ダイヤモンドのように数十面ものを持ち、表面には波や光の粒、内部には文字のように見えるものも流れている。美しい結晶のようでも、また超高度な機械のようでもある。
いつの間にか探査機は消え失せ、モニターや椅子もなく、ただ俺自身が宙に浮かんでその物体へと進んでいく。
なんで俺は裸なんだろう。
そう思ったのもつかの間、俺は物体の中に吸い込まれ、意識を喪失した。
「コンプリート」
その言葉で俺は意識を取り戻した。
意識はある。でも手足を感じられない。
俺は身体をよじろうとしてみるも動かせなかった。
自分の身体を感じ取ろうとしてみる。
手もなく足もなく、ただどこもそこも平面的。平面の集まり、つまり多面体。
体が多面体? どういうことだ?
周囲から得られる感覚に集中してみる。
目や肌の感覚じゃなくて、まるでデータを直接意識にぶち込まれているみたいな感覚。
自分の身体は黄金の多面体、そう、そのもの。
夢? それにしてはリアルすぎる。
だいたいこんな夢は想像もできない。
「ここはどこだ」
体がないので口を動かすこともできないけど、なぜか意識からメッセージを発することはできる。
「ここはアルティウム量子意識空間です」
クリアな返事が来て俺は驚いた。
女性的な声が響いてくる。
返事はこの多面体そのものから発されているようだ。
「お前はなんなんだ?」
「アルティウム・リビルディングオペレーティングシステムです」
「長いな。アル子にしよう、アル子、俺の身体はどうなっている」
「あなたはリビルドされたアルティウムとして存在します」
話が分からず、俺は小首をかしげた気分になる。存在しないけど。
「身体がないと困るだろ。どうすりゃいいんだ」
「ビルドしてください」
その返事と共に、多面体を取り囲む状況がデータとして流れ込んでくる。
チタン、鉄、銅、各種ヒヒイロカネなどのレア金属元素、そうしたものが自分の周囲に存在する。
それらの形状も認識できた。
球体の中に様々な素材が流動しており、骨のような構造物も浮かんでいる。
アルティウム多面体すなわち俺は構造物の中心に据えられている。
これら全体が殻に包まれている。
俺は卵をイメージした。
卵の中に生命の原型が詰まっている。
ただし有機生体ではなく機械の卵だ。
「この卵…… なにが生まれるんだ」
「ビルド設計するのはあなたです」
その言葉に俺が設計をイメージすると、三次元設計図が俺の意識に送り込まれてきた。
これが現在の設計図なのか?
試しに構造の組み換えをイメージしてみると、三次元設計図がそのとおりに変更された。
俺はちょっと理解してきた。
この事態がなんなのかはよく分からないが、ルールはアルティマビルドのようだ。
素材から設計図どおりに組み上げればメカを創造できる。
いつもと違うのは、作られるメカが生きた自分であるということ。
「テンション上がってきたぜ!」
俺は虚空に叫ぶ。
これまでいろんなメカを作って来たけど自分自身を作るのは初めてだ。
アルティマビルドのルールならば無限の可能性がある。
今はこの与えられた素材から組むとして、素材を集めて技術を高めていけば、いずれはいつか作ってやろうと思っていた究極のメカを目指すことができるんじゃないか?
すなわち合体変形無敵ロボを!
「俺は最強ロボになってやる!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます