幕間2 皆で鍛錬しよう!
こんにちは、勇者です。
寝込んで五日。ようやく元気一杯、完全回復です! そうしてみんなで訪れたのは何故かあのカイムを倒した森の中。嫌な思い出の地でしかないエルヴィンさんはとても渋い顔をしています。
さて、ルルエさんに誘われるままにこんなところへ来ましたが何が始まるかと思えば、
「さぁ、みんなで鍛錬をしましょう!」
⋯⋯あの、自分病み上がりなんですが。
そんな言葉も願いも耳には届かず、自分たちはグループ分けして各自鍛錬に勤しむこととなりました。
さてこの鍛錬。自分にとっては二つの地獄への道が用意されています。
一つはクレム先生の斬殺剣術指南。死にます。
こういう時のクレムは容赦ないので、油断してれば腕とか脚とか普通に斬り飛ばされます。痛いです。
一つはルルエさんの魔法特訓。死にます。
自分の精霊魔術は基本的に魔法を真似ることで行使しています。必然的に他人の魔法を見て覚える必要があり、自分は定期的にルルエさんに魔術で(何故か)攻撃され、その効果や魔法に混ざる精霊の割合を覚えて精霊魔術に転用しているのです。痛いです。
今回のグループ分けはクレム、エメラダ、クロちゃん。そして自分、ルルエさん、エルヴィンさん。
はい、魔法でコンガリぶっ殺しコースに確定です。
「今回からはエルヴィンもいるから、取得できる魔法も増えそうねぇ。良かったわねぇグレイくん!」
「ハイ、トッテモウレシイデス!」
自分はもう条件反射でそう答えます。これから何が起こるか知らないエルヴィンさんは、そのやり取りを不思議そうに見ていました。
ちなみにクレム側の鍛錬はというと、まずエメラダがクレムの身体に鎖を巻き付けます。
それをクレムが引き千切ろうとします。
そこに竜化したクロちゃんが脅しを掛けてクレムを怯ませます。以下無限ループ。
エメラダは鎖の強化を、クレムは魔物に対する恐怖心を克服していくわけです。
クロちゃん? 遊んでいるつもりなのであまり関係ないです。
「じゃあこっちも始めましょうかぁ?
「アガがガガガガッッ!?」
言うが早いか、鎧も何も身につけていない自分に目掛けて、ルルエさんが容赦ない高位魔法を浴びせました。
その行為に驚いたエルヴィンさんは何をどうしていいのかオロオロと動けないでいます。それが普通の反応だよね!
「あ、あの、ルルエ様!? いきなり何をなさってるんですか!?」
「何って魔法の特訓よぉ⋯⋯あ、エルヴィンにはまだグレイくんの精霊魔術のことちゃんと説明してなかったかしら?」
ザックリと精霊魔術の特性について説明し終えると、エルヴィンさんは睨むような羨むような哀れむような、様々な思いの詰まった目でこっちを見ています。⋯⋯やめて、そんな目で見ないで!!
「あ、あの、俺は何をすれば⋯⋯」
「そうねぇ。エルヴィンは回復に徹してくれるかしらぁ? 私はひたすら魔法をぶっ放していくから。グレイくんは一回一回のダメージや魔法の特性をよぉく身体に叩き込んでね!」
「ふ、ふぁぃ⋯⋯」
ふ、ふふふ。自分、今更こんなんで逃げ出しませんから。何せこれまで幾度となく同じ鍛錬を繰り返すうち、どれだけ逃げても結局当たるものは当たると学習したので。そんな体力使うなら棒立ちで素直に魔法に撃たれたほうが疲れませんからね! もうやだ!
「ではいくわよぉ、
「
「
「
「
「⋯⋯
「
「っ!?
「
「ぅぁぁ⋯⋯
「
「ひっ、ひぃぃ⋯⋯
以後もそんな調子で、どちらかと言えばエルヴィンさんが精神的に追い詰められながら鍛錬は数時間続いたのでした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はぁー終わった終わった! さっさと帰って飯にしようぜぇ」
「クロがさけぶと、クーがビクーンッてなるのたのしい! あとでまたやろ!」
「うぅぅ⋯⋯次はお兄様と鍛錬したい」
あちらは中々有意義な時間を過ごせたようでした。さて、こちらはと言えば⋯⋯。
「こんな⋯⋯こんな人を人とも思わぬ所業が、鍛錬? 俺の今までの鍛え方は間違っていたのか⋯⋯」
「いやそんなわけないでしょ」
自分のあまりにも悲惨な光景に、エルヴィンさんの心がまた病んでいました。この人、こう見えて本当にピュアなんですね。そんなことじゃこの先続きませんよ?
「⋯⋯⋯⋯グレイ様はいつもあんなことをルルエ様に課されていたのですか?」
「はい、今日はエルヴィンさんがすぐ回復してくれるので助かりました! いつもはダメージから回復までラグがあるので、毎回痛みで死にそうだったんですよね」
それを聞いたエルヴィンさんは、タタタッと木陰に入ると何やら嘔吐いている模様⋯⋯刺激、強すぎた?
フラフラと戻ってくると、涙を浮かべてガッシリと自分の手を握り、またいろんな感情の混じった視線が刺さります。だからその目やめて!!
「エ、エルヴィンさん大丈夫ですか? 少し休んでから帰りますか?」
「俺は今日、グレイ様の本当の強さを再認識しました。俺が勇者だった頃のルルエ様の鍛錬などただの児戯なのだと⋯⋯」
おぉぉぉ⋯⋯改めて経験者にそう言われると救われるような地獄に落とされてるような⋯⋯。
「そもそも術を覚えるだけなら受けなくとも見て覚えれば済むことなのに⋯⋯あのような仕打ちをされ尚も、このようにパーティの関係を続けられる貴方様はやはり聖人に等しき存在。このエルヴィン、真に心からグレイ様のお力になれるよう努力致します!」
キラキラの目力つよっ! え、やっぱりあの鍛錬って当たる必要ないの!? あまりにも日常になり過ぎててなんとなくこんなものかと思ってたけどやっぱり違うの!?
チラリとルルエさんを見ると、なんか舌を出してテヘッ! みたいな顔してます。騙されるかぁぁぁ!!
「いやあの、そういうお気持ちは嬉しいんですけどねエルヴィンさん――――」
「エルヴィンと! どうか呼び捨ててください! 貴方は俺の主人、ならば今後は信頼を込めてどうかそのように!」
グッと握られる手に力が篭り、もはやNOとは言えません⋯⋯なんか信頼を飛び越えて信仰レベルに達しているようなのは気のせいでしょうか。
その後、エルヴィンさん――――いえエルヴィンの過保護さと敬愛の視線は、日を増すごとに強くなっていくのでした⋯⋯。
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