ぼくがホームルーム委員なんて、とんでもない!


 ホームルーム委員といえば、朝と帰りの挨拶をしたり、ホームルームの司会進行役を務めたり、先生の補佐をしたりと、クラスのリーダー的存在だ。

 そういうのはたいてい、クラスの人気者か、そうでなければ、めちゃくちゃ真面目な人がなるもので、ぼくはそのどちらでもない。

 大塚さんは、クラスの人気者で、彼女がホームルーム委員になることに、みんな納得顔だった。


 じゃあ、ぼくは?


 怖くて、みんなの反応を確認する気にはなれなかった。ただ、ちらほら聞こえてくる声によれば、

「意外だな」

 そういうことらしい。うん、ぼくも、そう思う。

 それ以上は、心無い言葉が飛んで来そうだったので、意識して耳を閉じる。


「天谷くん、よろしくね!」


 ホームルーム後の休み時間、大塚さんが挨拶にやってきた。にっこり笑った顔がまぶしすぎて、直視できない。

 それでも、ちらっと見えた彼女の瞳が赤く充血しているのには、気がついた。きっと昨日、好きな人とうまくいかないと知って泣きはらしたのだろう。ぼくのせいだ。それは、流さなくてもいい、涙だった。


「よろしく」


 そう言って、握手を求める。大塚さんは、ぼくが差し出した手を、不思議そうに見ていた。

 あれ、こういう時って、握手のひとつでもするのが当たり前なんじゃ、ないの?


 失敗したか。


 引っ込めようとした手を、大塚さんがおずおずと握った。


「じゃ、また」


 少し恥ずかしそうに、大塚さんが自分の席へと帰って行く。


 ぼくは机に突っ伏した。

 破壊力が、ハンパじゃなかった。

 手、柔らかかった。

 どうしようもなく、好きだと思った。

 佐々木先生になんて、渡したくない。

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