4
「あさひ、あんた死ぬよ」
茶をすすりつつばあちゃんが言った。まるで、世間話をするような穏やかさで。
「は……?」
ぼくは力を失ったことを伝えるために、学校からまっすぐばあちゃんちにやってきた。
ぼくはぼくなりに頑張ってきたけど、力を失ったんじゃどうしようもない。
残念だけど、ぼくはこれきり、役職を降りるよ。
清々した気持ちで、そう伝えた。
これで、ぼくは自由だ。もう、いらぬ力に振り回されることはない。クソったれなルールに縛れることもない。占い研究部の活動に、放課後の時間を取られることもない。
ただ、活動費が使い込めなくなるのは、少し惜しいけれど。まぁ、金が欲しければバイトをすればいい。
気分は爽快だった。
なのに、ばあちゃんの言葉で、ぼくの気分は一瞬で奈落の底に落ちる。
「し、死ぬってどういうことだよ!」
「そのままの意味さ」
混乱するぼくの目をちらっと見て、ばあちゃんは湯のみを下ろした。
「あんた、力を私利私欲のために使ったね」
「使ってない!」
「いいや、使ったね。でなきゃ、力が消えるわけがない。毎日三人占うっていうノルマはこなしてたんだからさ」
ぼくらは、自分を占ってはいけない。それは、自分のために力を使うことになるから。
他人のためだけに力を使う、それが天谷の占いの在り方。
ぼくはそのルールを忠実に守ってきた。自分のために力を使ったことなんて―――
「あ」
そこで、ぼくは思い当たった。
大塚さんの占いの結果。ぼくは、嘘を教えた。勝手に裏切られた気分になって、腹いせのように。それで、ぼくの胸はすっとした。
それって、もしかして、自分のために力を使ったことになるの?
「なるね」
ばあちゃんは肯定する。
「あんたのありがたい助言のせいで、その子は恋をあきらめた。先生とくっつく未来はなくなった。おかげで、アサヒ、あんたは失恋せずに済んだよね。代わりに、自分がその子とくっつく未来でも思い描いたか」
「それは───」
正直、ちらっと考えたかもしれない。大塚さんが先生と付き合わなければ、ぼくにもチャンスがあるかも、なんて。でも、脳内をかすめただけだ。
「ま、いずれにせよ、その子に嘘を教えて、泣かせて、スカッとしてる時点で、あんたは自分のために力を使ったことになる。ルール違反だよ」
ぼくの心が絶望に染まっていく。水晶を染めた真っ黒い色に。
どうしよう。
「ぼく、死にたくない! 助けてよ、ばあちゃん!」
「そうさね」
再び茶を飲むばあちゃんの動きは、ひどくゆっくりだった。焦りは理不尽な怒りに変わり、ばあちゃんを責めてしまう。
こんな力。こんな、ぼくを危険にさらす力、欲しくなかった。こんなの、ぼくが望んで手に入れた力じゃないのに。大塚さんの好きな人なんて、知りたくなかった。彼女に八つ当たりなんて、本当はしたくなかったんだよ。
可愛い孫を助けてよ。ねぇ、ばあちゃん。
「助かる方法が、ないこともない」
ぼくが見た占いの結果を現実のものにすること。それも、二週間以内に。
それが、ばあちゃんが語った、ぼくの命が助かる唯一の方法だった。
つまり、今から二週間後までに、大塚さんと佐々木先生をカップルにしなければならなってこと。
成功すれば、ぼくの“
「あの占い結果は、実は嘘でしたって報告して終わりじゃだめなの?」
とうひとつ
けれど、ばあちゃんは「だめだ」とすげなく却下する。
「嘘をついたことは
そういうことらしい。
「一度あきらめちゃった子を、もう一度その気にさせなきゃならないんだ。骨が折れるよ、あさひ。頑張んな」
二週間後に孫が死ぬかもしれないというのに、ばあちゃんはひどく楽しそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます