聖青葉学園には、あやしげな部活が存在する。

 その名も、『占い研究部』


 こんな、いかにもヤバそうな部活、学校側がよく容認してるよなって思うけど、なんと占い研究部は学校創立から百年も続く由緒正しき部活なのだ。

 校長の覚えも良く、占い研究部は他の部活の倍も多く活動費をもらってる。そんな大金、必要ないのに。なんせ、占い研究部の部員はいま、たった一人だけだ。

 つまり、ぼくなんだけど。


 占いのイメージにありがちな、暗くて、寒くて、じめっとした空間とは程遠い、太陽光がさしまくる西側の空き教室が、占い研究部の部室だ。

 ぼくはそこで放課後の二時間を過ごす。一時間は、“お客さん”を占って。もう一時間は、たんまりある活動費で買い込んだポテチとコーラをお供に、漫画を読みながら。


 誤解しないでほしいんだけど、ぼくは別に、望んで占い研究部に所属してるわけじゃない。

 ぜんぶ、ぼくが持ってる力のせいだ。


 ぼくのうち、天谷あまや家は、いわゆる『占い師』の家系だ。

 水晶玉を使って、人の心の内や運勢や未来などをみることができる。


 といっても、天谷家は占いを商売にしてるわけじゃない。本業は別にあって、占いで金をとることはない。だから、天谷家の者が誰かを占うことがあるとすれば、それはボランティアってわけだ。


 うちはホンモノの占い師なんだから、持てる力は最大限利用して、がっぽり金儲けをすればいいのに。

 そう思うけど、だめなんだって。純粋な力を維持するためには、私利私欲のために力を使ってはならないとか、なんとか。まったく、昔の人は考えが硬い。


 そう、ぼくに天谷家が持つ占いの力について色々と教えてくれたのは、ばあちゃんだった。本当は、親から教わるのが筋らしいけど、うちは父さんが死んでるから。


 ともかく、ばあちゃんが言うには、占いの力は一日に最低三人に無償で使ってやらないといけない。でないと、死ぬ。ぼくが。


 どういう理屈だよって思うけど、それがルールだから仕方ないって、ばあちゃんはぼくの文句を一刀両断する。


 ルール、ルール、頭が痛い。


 天谷がこの力を持っていることを、他人にしゃべってはいけない。これも、ルール。そういうわけで、ぼくが毎日死の危機に瀕しているってことは、母さんでさえ知らない。母さんはよそから天谷家に来た嫁で、他人だから。


 ぼくに占いの力が発現したのは、中学二年生のときだった。

 ある日突然、友達の頭の中の言葉がぜんぶ聞こえてきて、パニックになって気絶。目を覚ますとばあちゃんがいて、天谷家の力について教えられた。

 信じられないような話だったけど、ぼくは信じざるを得なかった。だって、実際、ぼくには人の頭の中が見える。


 世界は雑音に満ちていた。常にしゃべり声がする。知りたくないことまで知ってしまう。勝手に聞こえてくる声のせいで、ぼくに能力の説明をするばあちゃんの声が聞き取りづらいくらいだった。


 ぼくの脳は、常に電波を受信しているアンテナ状態なのだという。そのまま過ごすには、日常生活に支障が出る。だから、水晶を使う。水晶と契約してアンテナ役を代わってもらうことで、声は聞こえなくなった。


 水晶は、アンテナの仮宿かりやどだ。ぼくの脳より、性能はおとる。

 たとえば、水晶は、声を伝えない。映像のみだ。触れば、人の心の内や運勢や未来が見えるけど、それは断片的なもので、時として解釈を必要とする。だから、完璧じゃない。


 まぁ、水晶の性能なんて、どうだっていいけど。だって、人の心の内や運勢や未来なんて、興味ないし、知りたくもない。


 そもそも、こんな力欲しくなかった。


 なんなら、ぼくの力を水晶の中に永遠に閉じ込めて殺してしまいたい。水晶は地中深くに埋めて、もう一生触らない。ぜんぶ忘れて、これまで通りただの人間として生きていく。


 だけど、どんなに望んでも、ぼくはぼくの力を無視できない。なぜなら、天谷家のクソったれルールがあるからだ。


 天谷の占い師は、一日に最低三人を無償で占わなければならない。でないと、死ぬ。


 死にたくないぼくに、逃げ道はない。一日三度は水晶に触れて、他人の心の内や運勢や未来を、嫌々見る。

 そのための場所が、占い研究部というわけだ。


 能力が発現した中学二年のときに、今の学校、聖青葉学園に転入した。


 聖青葉学園は、キリスト教の学校で、生徒たちは、普通の学校に通う学生よりも、神とか、幽霊とか、そういう、オカルト的なものに理解がある。そして、ここが最重要。聖青葉学園には、占い研究部という、代々学生たちに愛されてきた部活が存在する。


 あさひくんの、良い隠れみのになるんじゃないですか。


 そうすすめてくれたのは、天谷の分家出身で、自身も占いの力を持つシスタークロエだった。

 シスタークロエは、聖青葉学園の教頭で、高校生のときには自分も、占い研究部に所属していたそうだ。で、いまは、占い研究部の顧問こもんをしていると。


 ぜひ、うちに。


 そう言って、にっこり笑ったシスタークロエは、年齢不詳ふしょうの妖怪おばさんだ。ちなみに、バリバリの日本人。クロエという名前は、キリスト教に入信したときにいただいた名前らしい。なお、本名はわからない。


 本物の能力者しか入ることができない、聖青葉学園の占い研究部。

 中学2年から、高校2年生の現在に至るまで、部員はぼく、ただ一人だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る