第45話 5/4-B たまたまの裏側

 ホントにたまたま、だ。

 こいつが今ここに住んでてだらだら暮らしてるのも、他の場所のひと達よりは気楽に暮らしてるのも、何年か前にこいつがこの家に戻ってきてからなんだよな。


 つまりはこの家の小父さん小母さんが亡くなったからで。


 しかも全然二人が悪くない交通事故で即死、だったから、一人娘のこいつに両親の遺産と保険がどん、と下りてる。

 もともと家をいつか建て替えようって分だったらしい。その上に、だ。

 いやそれだけじゃねえな。

 ここの小父さん小母さん、こいつの性格を結構心配してたから、結婚せずに一生過ごすんじゃね? ということ考えて貯めてたのかもしれない。


 そんでこいつは家を直す気はあっても一人きり、建て替える気はさっぱり無い。

 そもそもこの小父さん小母さん、どっちもどうも親戚筋とどうも元々仲が良くなかったようなんで、下手な奴等が寄ってくることも無い。そもそも葬式にも来なかった。居場所教えてないとみた。


 しょーじき、こいつが大学で部屋借りて何だかんだできたのは、何だかんだでウチで過ごす時間が多かったからだと思う。

 こいつとよく似た性格だった小父さん小母さんは、どうもしつけが上手くなかった。

 たぶん似た者同士の二人とも仕事に熱心で、こいつのための金貯めることに一生懸命で、割と一人で平気な娘をほったらかしにしておいたんだと思う。

 うちは子供がごろごろしていたから、別に一人増えても構わなかったし。

 だからまあ、こいつにちゃんとした箸の使い方とか鉛筆の持ち方とか教えたのは、ウチのかーさんや親父だし、紐の結び方とかナイフや鎌の使い方を教えたのはじーさんだ。

 ……んで、誰も針使いは教えられなかったんだよなー。

 それこそのったりのったり、こいつの性格にあった生活ができているというわけだ。

 ただ小父さん小母さん、結婚しないだろうって見込みは合ってたよ!

 でもいつか籍は入れたいんだよなアタシとしては。形は養子でいいんだけど。こいつが病気のときについていてやれる形ではありたいよな。

 いや、今の暮らしならアタシがついてることできるんだよたぶん。普段からこいつに「何かあった時のためにカードでも作っておけ」とは言ってあるし。事故にでも遭ったときの連絡先はウチなんだから。

 気楽と何とやらは紙一重なんだわな。

 たまたま、だけど。ホントこいつが都会住みでなくてよかった。

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