第8話 4/15-B うだる午前中

 作業をしていたら、奴がやってきた。

 そしてばたんと作業場の側の畳の上にひっくり返る。


「暑いー」


 ……うん。確かに向こうの家では今日は暑かったろう。

 朝からいい天気で、風もほとんどなく。

 そーいえばこいつ、夏もそうだ。暑くなるとうちに来ては風通しの良い中で昼寝していく。

 で、だいたい腹を出しているので、タオルケットをかけるのはアタシなんだが。


「おまけにまぶしいー」

「あー」


 その季節か。

 紫外線がきつい、っていつも言っていたなー。アタシはそうでもないけど、こいつはダメだ。

 なのに家の作りが天井から光を取り入れるタイプなので参っている。遮光カーテンじゃ真っ暗になるからダメ、なんだと。


「あれ作ればー?」

「なに」

「ネット張って、緑のカーテン。ゴーヤ作れや。そしたらウチで食おうぜ」

「……今日はやだ」

「今日なんて言うてないだろが」

「アンタ何で平気なんだよー」

「こっちも聞きたい。お前生理痛軽いくせに何でそれは弱いんだあ?」

「関係ないだろー」

「あん時はけろっとしてるじゃんか」


 アタシはあかん。まあもう夜中とか大変。あっちのお誘いがこいつからあっても「死んでるからさようなら」と言ってしまうくらいだ。そんで後で「アンタあん時死んでるって言っただろ」とちくちく言われるんだ。くそ。

 まあ二人して周期が合って同時に大出血で死んでいても仕方ねえのでいいけどさ。

 んなこと考えていたら、もぞもぞと奴はうつ伏せのままこっちに移動してくる。ほふく前進ってやつか?

 いやこらこら腕にしがみつくと。


「こら、ひごが危ないぜ」

「当てるなよー」

「暑いって言ってなかったか?」

「汗が出なくてきもちわるい」

「はいはい」


 アタシはひとまずひごを奴の手の届かないところに置き直した。

 そんでずるずると奴の脇の下に手を入れ、隣の部屋へ引っ張って行き。ふすまを閉める。こうすれば外から見えない。東西に開いている窓は高いから風は通すけど。


「ちっと待ってな」


 アタシは仕事用の割烹着を取ると、ともかくせっけんでよく手と顔と腕を洗った。ともかくこういうとき、こいつはハンドソープの匂いを嫌がる。

 だらんと相変わらずうつ伏せに死んでいる奴の背中から引っ張り上げ、そのまま抱き込む。

 壁に背をあずけて、よく洗った冷たい手を奴の服の間に突っ込んだ。首がかくんとアタシの肩の上に上向きに乗る。

 そんで乾いた熱を持った身体に直に触ってゆく。

 あいにく、汗を出すツボなら心得てるんだからな。

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