お隣まで何百メートルな地方のだらだら百合ライフ。

江戸川ばた散歩

第1話 4/12-A 誕生日

 世間は新型コロナでお家に居ましょう。

 田舎の一人暮らし、リモートワークと言えば聞こえはいいが、元々遠すぎてそういう生活だったんだから、こう言っては悪いんだが、今一つ危機感が無い。

 そんな訳で裏の畑の草むしりである。無茶苦茶広い訳ではないがしない訳にもいかない。

 と、どか、と背中を蹴られた。


「何すんだよ一体」

「何だよはこっちだよ。何だこの『すぐ来ないと泣くぞ』ってのは」


 それでわざわざウチに来るお前もお前なんだが。つか何だその格好。防水エプロンが血と羽根にまみれてるぞ。あ、ゴム手もか。


「『テラスハウスで猫を見る日々』は覚えてるか?」

「お前の今はまってる四コママンガだろ」

「の、推しカプの片割れが事故に遭ってだな」

「ほぉ。それで推しの片割れが死んだと」

「いや、そのショックで性格が変わっちまった」

「何だ死んでないのか」

「いや、ワタシの推しであったところのキャラはお亡くなりになった」

「ほぉそれはそれは。ところであたしは今何やっていたと思う」

「死体の解体作業でもしてきたんか?」

「近いな。ローストチキン用に鶏を絞めてた途中だったんだぜ」

「春なのにっ」

「ただでさえ気が滅入る様なこのご時世だから、せめてお前とご馳走でも作って食いたいと思うのは人として正しい行動だと思うんだが? ついでに市場が何とやらで安く買えたんだ」

「そりゃそりゃ。詰め物もか?」

「そこまで期待すんな。フツーに焼くだけだ。外に用意したけどな」

「ちょっと待て、確かお前ワタシにケーキ作ってくれる予定んじゃなかったっけ?」

「忘れてたと思ったぜ」

「つか自分の誕生日忘れるかよ」 


 そう言ってうりうり、とエプロン越しに胸に胸を押しつけてやった。うっわー、感触すくねー。けどそのくらいしかできねーのがつまらんー。

 いやこのご時世、外でキスは止めといた方がいいだろ。時々それども手押し車のばーさま達が鍬とか持って歩いてるんだ。

 つか、そうでなくとも日射しよけ帽子に割烹着なんだ。帽子に帽子じゃしたくても物理的に無理だろ。


「夜に来いや。ウチの連中も居るけどよ、今日は泊まるんだろー、風呂入ってからしようぜ」

「うす」


 こいつの部屋は離れだ。ああこういう時敷地が広いってのはええのぅ。

 しかし三十路かー。そっかー。

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