第4話

 俺は春川とまた話をしたかった。あの日のことを謝りたかった。だがうまく逃げられてしまう。声かけてもだめ、呼び出してもだめ。他の先生とはさみうちにする最終手段は涙目になられてしまった。



「秋田先生? もしかして彼女になにか…」


「ち、違います!」



 これじゃほんとに不審者だ。公園にも時々顔を出すが、見つけられない。避けられ続け、すっかり公園の桜が葉桜になった頃ばったり出会った。春川は公園のベンチで座っていた。俺と目が合うなりダッシュの姿勢になる。


「待って春川!」



 それでも止まらない。



「待て桜子!!」


「!?」



 思わず名前で呼んでしまったら、あの日のようにうつむかれた。やっぱり理由は名前か。



「名前、呼び捨てにして悪い」


「そうだよ、先生のバカ」


「…いい名前だと思うよ。俺さ、葉太って名前嫌いなんだ」


「そうなの?」


「そうだよ」



「桜、全部葉っぱになっちゃったね」


「春も終わりだからなあ。なあなんで名前嫌いか聞かないのか?」


「うん…」



「そうだ、そういや部活どうするんだ? かけ持ちもできるし、辞めて違う部活に入ってもだいじょうぶ…」


「先生? 正直にいうとね部活なんでもいいの。そう思ってる自分が嫌なんだよ」


「なんでも?」


「名前もたしかに嫌だけど、あたしは『かわいい桜子』や『憧れの桜子』にはなれないんだよ」



 意味がわからない。彼女は真剣に悩んでいて、普段のおちゃらけた顔でなく俺を見る。



「なりたい自分にならなきゃ、なんだけど目標がなくて。中途半端な趣味や似合わない名前や、がさつで大きな声でうるさくて」


「うるさくないよ。ごめんな先生うるさいなんていって」


「いいや、先生あたしうるさかったよ。先生の言う通りだった」



 うつむき、長い髪が表情を隠す。りんやクラスの前ではたいして変わりないように見えていたけど。彼女は悩んでいる。



「あたし子どもっぽいんだよね、どうしたらいいと思う? 今どきこんなこと先生に相談する子いないよね」


「そんなことない、部活悩んでる子も他にもいるし。みんなそんなもんだよ、まわりに見せないだけさ」


「そう?」


「そう思うよ、だって俺も悩んでるから。ようたっちってあだ名も嫌だし。太陽みたいに明るくなれないって思ってた。俺は葉っぱのようだし。太陽の光を浴びて育つ、誰かの力を借りなきゃなんもできないんだって」


「先生もそんなこと考えるの」


「お前と同じくらいの歳にな。うーむ、彼女にフラれたのもなんでかわからないし」


「わかんないの? 先生あつくるしいんだよ、あたしめっちゃ避けてたのにさあ。多分嫌になったんだよその人」



 う、お前にいわれるとグサッと刺さる。でも嫌われないようにと思って彼女に接してたからなあ。彼女に避けられてからは話しかけなかった。あの日ブランコで泣いていたのも俺には何があったのかわからない。声をかけられなかった。悪いのは俺だ。



「改めて、すまんな春川」


「こちらこそすいませんでした、避けちゃって。あとここでうるさくして」


「しずかな春川なんて、つまんないよ」


「先生、あたし別に面白くなりたいわけではないのです」


「そういう意味じゃないよ。俺がみてて物足りないなって」



 春川をやっと捕まえた。やっと謝れた。桜の花びらみたいだなって言ったら、なに恥ずかしいこといってんのと返された。



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