第2話
桜は好き。春も川も好き。運動はできないけど、外も公園も好き。正直遊具で遊ぶ高校生なんて、たむろしてるヤンキーくらい。あたしはやっぱり子どもっぽい。ブランコ超楽しい。もう少しで桜の木に届きそうで届かない。懐かしいなあ、小さい頃はいくらでも乗っていられた。桜のきみの中に飛び込んでみたかった。
「春川」
「え? 先生じゃん」
「俺も隣座っていい?」
「え? 嫌だけど」
「そっか…いつもここにいるのか?」
「時々ねー、先生こそなんで?」
「コンビニ帰りだよ」
葉太先生は水とプリンだけの袋を持ち上げる。いつもの学校でみるスーツじゃなく、スウェットで。先生も先生じゃないときがあるんだ、なんて当たり前のことに気づく。
「…なにか悩みでもあるのか」
「へ?」
「言いにくいことなら無理にいわなくていい。ほんとにここ通りかかったのは偶然だし」
「葉太っちなにいってんの? ああ、家ねすぐそこなの、だから時々気分転換しにきてるだけで。ああ別に家居心地悪いとかじゃないし、えーと小さいときからこうしてるから大丈夫です」
先生が心配してる理由が何となくわかった。まあ夜も遅いし、あたしも制服だし。
「でも早く帰れよ、見つけた以上報告しなきゃ行けない」
「え!? すぐそこだよー? 近所の人も顔見知りなんだよ?」
「こんな夜中に、親御さんなんともいわないの?」
「だって徒歩圏内だし、寄り道しないで10分くらいで帰るをもうかれこれ10なん年繰り返してるんだよ?」
「10年ちょっとだろ? 明日は違うかもしれない、用心するにこしたことはないよ」
むっ、葉太っちのくせに偉そうだ。この町の安全さはあたしが保証する!いかに安全かを教えていると突然笑いだす。
「愛してんだなあ」
「笑うなー!」
「まあ、ここの人は大丈夫みたいだけど、俺みたいなよそ者が悪いことするかもしれないだろ?だから危機感持てよって話だ。以上解散」
「あ、逃げたなー! だから先生彼女できないんだー!」
「こら、大きい声出さない」
「戻ってきた。先生逃げない?」
「逃げない」
「おおめにみてくれる?」
「ああ、はいはい」
「嘘臭いなあ、返事は一回!」
「近所迷惑、うるさいぞ桜子」
先生が名前であたしを呼んだ。しかも桜子にうるさいをつけて。あたしなんて子どもなんだろう。こんなことで、これくらいのことで、
「う、うるさくて…」
「突然どうした?」
突然うつむくあたしを心配する先生は、先生だ。あたしみたいな子どもじゃない。ああ、あたし本当にガキンチョだ。
「うるさくて悪かったな!!」
あたしは近所さんに響いたであろう大声で先生にいい放つと、いたたまれなくてその場から走って逃げた。足が遅くて恥ずかしかった。でも先生は追いかけたり呼び止めたりしなかった。
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