葉桜の君に

新吉

第1話

 君は彼女と同じようにブランコに揺られていた

 記憶の彼女はそのあと泣き出した

 綺麗だけど怖かった

 ばらばらと崩れていきそうで

 だけど目の前の君は

 急にぐんぐんと加速して楽しそうに笑った

 まるで悩みなんてないようだった

 それでも俺は声をかけた

 あの日君にはできなかったから




 ○○○○


「せんせーさよならー」


「さよならー気をつけて帰れよ」



 あたしは桜子。この名前を何度恨んだかわからない。名字は春川。桜の咲く時期に産まれたもんだから。さくらこ。いやね、美人でおしとやかな清楚系ならいいよ。あたしはそうじゃない。親の方針で習い事は多かった、だけどスポーツ関係は一切長続きしなかった。今は小さい頃から入っている劇団と絵を細々とやっている。



「桜子、部活決めた?」


「まだ悩んでるー、バイトしたいから文化部にしようと思うんだけど、どこも魅力的でさ」


「吹奏楽は大変そうだよ」


「そうだよ、あれは運動部枠だ。もとよりあたしのような運動音痴にはできない。美術とイラストと演劇と合唱、あと写真部で悩んでる」


「全部入っちゃえ」


「簡単にいうなよ、りーちゃんはソフト一本?」


「おうよ」



 白い歯を見せて笑うのは友だちの七海りん、あだ名はりーちゃん。絵にかいたような日焼け美女で健康的な彼女の部活風景を題材にして賞を頂いたことがある。あたしは趣味が多い。はっきりいうと1つのことにたいして熱中できないのだ。そのままりーちゃんの夢の話になる。


「え? ソフトの選手じゃないの?」


「うん、うち先生になりたいんだ」


「葉太っちみたいな?」


「うーん、まあそうね。フレンドリーな先生になりたい」



 葉太っちはあたしのお姉のクラスも担任だったから、時々話を聞いてたし、先生もあたしのことを知っていた。ちょっとあつくるしい先生だけど、友だちのように接してくれる。



「うちね、部活の顧問やりたい」


「想像できる! めっちゃ似合うね」


 なんていったけど、りーちゃんはずっとソフトボールをするもんだと思ってたから驚いた。試合の応援に行くつもりだった。

 その頃あたしはいったい何をしているんだろうか。さすがにもう公園のブランコには乗らなくなってるかな。



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