婚約破棄裁判

@asashinjam

婚約破棄裁判

サンズ王国の最高裁判所で本日話題になっている裁判が執り行われる。

傍聴席には多くの人々が集まり、 裁判所の外にも人だかりが出来ている。


「それでは裁判を開始します、 検察側、 被告の罪状を述べて下さい」


裁判長が検察に罪状を出す事を求める。


「はい、 被告、 大公家のヴィーナス大公令嬢は一昨日行われた自身が通う学園の卒業パーティーにて

婚約していたサンズ王国第一王子ジュピター殿下に婚約破棄を言い渡されました

その際、 新しい婚約者として紹介されたマーキュリー男爵令嬢を

隠し持っていたクロスボウで頭を射抜き殺害しました

被告はその後警備員に大人しく拘束され今に至ります」

「ふむ・・・被告、 大公家のヴィーナス大公令嬢、 貴方はマーキュリー男爵令嬢殺害を認めますか?」


裁判長が尋ねる。


「認めます」


ヴィーナス大公令嬢を胸を張って答えた。

ざわつく傍聴席。


「ふざけるんじゃねぇ!!」

「そうだそうだ!! 何が認めますだ!!」

「くそったれが!!」

「なんと!!」

「▽×○☆■!!」


傍聴席のヴィーナス大公令嬢の弟のマーズ。

サンズ王国第一王子ジュピター、 騎士団長の一人息子ウラヌス。

枢機卿の息子ネプチューン、 留学生のプルートが騒ぎ立てる。


「静粛に!!」


カンカンと、 槌を鳴らす。

静まる傍聴席。


「裁判長、 愚弟が騒ぎ立てた事をお詫びします」


ヴィーナスが頭を下げる。


「なっ!!」

「貴方が騒ぐと我が大公家の品位が落ちます、 自重しなさいと常に言っているでしょう」

「貴様っ!!」


掴みかかろうとするマーズを取り押さえる警備員。


「静粛に、 では犯行の動機を述べて下さい」

「はい、 私が殺害したマーキュリー男爵令嬢は

国家を揺るがそうとする大逆人と判断したので殺害しました」


ざわつく傍聴席。


「何を言うか!! 事も有ろうに大逆人だと!?」

「殿下、 お静かに」


裁判長が述べる。


「ではヴィーナス大公令嬢、 何故貴方はそう思ったのですか?」

「はい、 まず始めにジュピター殿下にアプローチをかける女性は全て

王国第一王子と言う肩書に惹かれている者達です」

「そんな事は無い!! マーキュリーは俺の人柄に惚れていたんだ!!」

「ジュピター殿下は情緒不安定な所が有りまして

卒業パーティで婚約破棄を行う等、 一般常識にも欠ける所が有ります

加えて仕事は怠けて私に押し付ける、 剣の訓練や勉強も怠ける等、 怠け癖も有ります

これに関しては私が提出した資料にも纏めて有り、 国王陛下への報告書にも纏めて有ります」

「ちょっと待て、 報告書って何だ!?」


ジュピターが騒ぐ。


「国王陛下からジュピター殿下の行動を逐一報告せよと指令が下っています」

「初耳だぞ!?」

「加えて、 我が大公家の情報収集部隊が詳しい情報を取得し

殿下に色目を使い殿下を誘惑するような女性は全て憲兵隊の管轄になります」

「ど、 どういう事だ!?」

「ま、 待て・・・つまり我が学園で転校や留学が多い理由は・・・まさか!!」


ウラヌスが戦慄する。


「そしてマーキュリー男爵令嬢ですが、 我が家の情報収集部隊から連絡は入っておりません

我が家の情報収集を逃れて行動していた、 つまり何らかの思惑が有って

ジュピター殿下に接触し婚約破棄をさせて王家に入り込もうとしていたと推測し殺害しました」

「殺害するのは早計では有りませんか?」


検察が鋭く攻める。


「いえ、 ジュピター殿下の独断とは言え王家の婚約者

ガードも固くなる事が推測され、 更にここまで入念な情報対策をしていた方が

何の対策もしていないとは考えにくい、 彼女を殺すチャンスは今しか無いと思い

護身用のクロスボウで頭を貫きました」

「な、 なるほど」


冷徹な物言いにたじろぐ検察。


「そんな事言って俺と結婚するから嫉妬していたんだろう!?」


ジュピターが叫ぶ。


「いえ、 殿下と結婚するのは王国の為なので殿下が私に対して愛情を抱いていない様に

私も殿下に対する愛情は微塵も有りません、 王家への忠誠心での婚約ですので」

「なっ・・・」


絶句するジュピター。


「嫉妬は無かったと」

「えぇ、 せめて苦しまない様にと頭を打ちぬきました」


検事の言葉に粛々と答えるヴィーナス。


「しかしマーキュリーを殺害したのは事実、 罰を受けなさい!!」


ネプチューンが叫ぶ。


「その女の首を斬るなら俺がやろう!!」


ウラヌスが剣を抜こうとするが警備員に止められる。


「えぇ、 勿論私は罰を受けるつもりです、 大公家とは言え罪人は罪人

人を殺して置いてお咎め無しでは国は成り立ちません」


粛々と罪を受け入れるヴィーナス。


「お待ち下さい!!」


バンッ!! と裁判所内に入って来る一人の男。

彼は大公家の従者アース。


「アース? 今は裁判中ですよ、 一体何を・・・」

「裁判長!! マーキュリーの悪行について調べて来ました!!

これを証拠として提出します!!」

「ど、 どういう事ですかな?」


アースが手に持った証拠書類を見せる。


「こ、 これは!?」

「そこに居るマーキュリーに骨抜きにされた者達の行動記録です」

「「「「な、 何!?」」」」「×○!?」


そこに書かれていたのはマーズによるヴィーナスの印象操作。

ウラヌスによる他の令嬢達への圧力。

ネプチューンによる国宝の横流し、 プルートのインサイダー取引等々。

様々な悪行が赤裸々に綴られていた。


「こうして権力を得ようとしたマーキュリーは悪!!

殺されても仕方が無い!!」

「従者如きが俺のマーキュリーを愚弄するな!!」

「俺の? ハッ!! 殿下!! 貴方はまだ気が付いていないんですか?」


アースが馬鹿にした様に見下す。


「・・・何をだ?」

「貴方が好かれる所って家柄以外に何が有るんですか?」

「・・・・・性格」

「怠け癖、 俺様、 あ、 あと身分で人を差別する所とか」

「身分で人を差別だと!? そんな事はしていない!!」

「さっき従者如きと言っていたのをお忘れで?」

「~~~~~!!」

「それに貴方は不思議に思わないのですか?」

「何がだ!?」

「何故貴方以外の四人がマーキュリーが貴女と結婚をするのに何も言って来ないのか」

「・・・それは俺の人徳だろう」

「無いじゃないですか」

「・・・・・何が?」

「人徳」

「殺すぞ貴様!!」


剣を抜こうとして警備員に止められるジュピター。


「貴方がマーキュリーと婚約しても出し抜いて浮気する事が容易で

しかも家柄が良い金づるとして利用されているに過ぎないんですよ、 貴方は」

「そんな訳が有るか!! 俺はマーキュリーに愛されていた!!」

「本当に?」

「あぁ!! 現に」

「もう止めて下さい」


ヴィーナスが制する。


「殿下、 貴方が何を言おうが如何足掻こうが

貴方には人徳も人間としての魅力も無いんですよ、 悲しいですが

貴方がこれまでに何もして来なかった結果なんですよ・・・」

「貴様ぁ!! 俺を愚弄するかぁ!!」

「そうやって諫める者の意見を全否定して現状なんですよ・・・」

「~~~~~!!」


剣を抜こうとするがすっぽ抜けるジュピター。

それを押さえる警備員達。


「何れにせよ裁判長、 私は人を一人殺しました

その女は国に仇なす大逆人とは言え罪は罪、 私は大人しく刑に服します」

「お嬢様!? 何故!? アイツは死んで当然の女なんですよ!!」

「アース、 ここは清源なる裁判所ですよ、 礼節を弁えなさい」

「しかし!!」

「アース、 貴方は大公家の従者ですよ? 家に恥をかかせないで下さい」

「・・・・・申し訳ありませんお嬢様」


頭を下げるアース。


「し、 しかしこれ程の悪女を殺した方を刑に処する等・・・」

「裁判長、 貴方は法の守護者です、 貴方が法を順守しなければ

国は混乱します、 貴方が法を守らなければ国が終わります

悪しき前例を作らないで下さい」


凛とした眼でヴィーナスは裁判長を見た。


「・・・・・では判決を言い渡す、 被告ヴィーナス大公令嬢を

マーキュリー男爵令嬢殺害の罪により懲役8年の刑に処す」

「8年!? たったそれだけで許されるのか!?」


ジュピターが叫ぶ。


「殺人の刑期は有期刑なら5年以上の刑です、 問題有りません

それでは移送しなさい」

「はい」


ヴィーナスは移送されていった。




その後

マーズは大公家を継ぐ資格無しと判断され追放される

大公家は養子を貰い跡継ぎにした。

ウラヌス、 ネプチューン、 プルートは悪行がバレて然るべき刑罰を受けた。

ネプチューンは刑務所で暴れて更に刑が重くなったらしい。

ジュピターは勝手な婚約破棄で大公家と王家の折り合いを悪くしたとして

王太子からは外され、 第二王子サターンの下で一生コンプレックスを感じながら生きたと言う


ヴィーナスはと言うと






刑務所の面会室でヴィーナスに絶縁状を渡すアース。


「まぁ人を殺して刑務所に入れば家から絶縁されますよね」

「お嬢様・・・申し訳有りません!! 俺が至らず・・・っ!!」

「良いんですよ・・・国の為なら絶縁位どうという事は有りません

見方を変えればこれで大公令嬢としての立場から解き放たれて自由になれたと言う事です」

「え?」

「アース、 私は人殺しの上に平民に堕ちた身では有りますが

私が出所したら、 妻に貰ってくれますか?」

「・・・・・はい」

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