"家族"に"私"は必要ない

銀髪ウルフ  

第1話 日常の崩壊

その日はいつもと同じ朝だった。

いつものようにお母さんの声で起こされ朝食をとり、学校へ向かう。

今でも「いってらっしゃい」そう言って送り出す母の姿をよく覚えている。


この時の私は11歳。

誕生日を迎えたばかりの小学生5年生。

1つ歳上の兄がいて、父と母がいる。

ごく普通のマンションに住み裕福でも貧乏でもない普通の家庭。

それが小さな私にとって世界の全てだった。


父は仕事で忙しくほとんど家にいなかったから私は学校のない日はほとんど母と二人で過ごしていた。

兄は習い事があり休日はあまり家にいることがなかった。

だから私はよく母と二人で買い物に行ったり、映画、カラオケに行ったりと二人だけの【秘密の時間】とも言うべき時間を過ごしていた。

二人で過ごすことが多かったからか私は母が大好きだった。

いつも明るくて家族の中心にいる存在。

私たち家族を繋ぎ止めてくれている大きな、大きな存在。

そして、自分の1番の味方で1番の理解者。

小さいながらにもそう思えるほどに母が大好きで信頼していた。

もちろん怒られることもある。

ちなみに母が怒るとめちゃくちゃ恐い。

でもそれは愛情があるってわかるし、何より後々の自分のために怒ってくれていた。

その事に気がつけるのは大分先だけど、、、、。


こんなとくになにもないけど幸せな日々がずっと続くと思っていた。

当たり前の日々が当たり前に、これからもあると。

だけどそれは希望的推測。

"当たり前"それは奇跡にも近いものだということをこの時の私は知らなかった。

でも、仮に知っていたとしたら?

もっと"今"を大切にできたのだろうか。

多分できないだろう。

人は与えられたものについてのありがたみはきっと失わないと気づけない。

私がそうであったように。


そう、こんな普通の家庭に突然の悲劇が訪れるのはある意味必然だったのかもしれない。


私がその悲劇を知ったのは小学校の帰宅時だった。

いつものように帰宅しようとしていると先生に呼び止められた。

詳しいことは教えてもらえなかったからよくわからなかったけど、先生曰く親戚の人が迎えに来るから学校で待っていてほしいとのことだった。

とりあえず帰宅班の友達に一緒に帰れないことを告げて図書室で宿題をしながら待つ。

どうやら兄も同じ事を言われていたみたいで一緒に図書室で待つことになった。

一時間位待つと親戚である母の妹が私たちを迎えに来た。

そこでも詳しいことは話さず、そのまま私たちを乗ってきたタクシーに乗せる。

そしてタクシーは家とは違う方向へと出発した。

タクシーが走り出してからしばらくしてようやくどこに向かっているのか、何があったのかを話してくれた。

その内容はこうだ。


母が仕事中に病院に運ばれた。


そう言うことらしい。

なぜそうなったか、現在どういう状況なのか、詳しいことは母の妹にもわかってないみたいだ。

いや、もしかしたら知っていたけれど私たちが取り乱したりしないように黙っていたのかもしれない。

大人と子供の差。

いつだって子供は守られる存在で負荷に耐えられない、そう思われている。

それが信頼されていないと勘違いして傷つく子供もいるのに。

もっともこういう風に思えたのは大分成長してからだったりするからこの時にはここまで大人の心情とかを考えたりはしなかった。


ただ、どうせ大したことない。

病院に行ったら笑顔の母が「お帰り。」そう言ってくれる。

根拠はないがなんとなくそう確信していた。

ドラマの主人公みたいな悲劇が平凡な私みたいな家族におこるわけがない。

そうでしょ?


だけど、そんな思いは病院についていとも簡単に打ち砕かれた。

ICUの待合室。

そこには父と祖父母。


現状を真っ先に理解させられたのは膝の上で手を組み俯いている父の姿だった。



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