第29話ただ知りたいだけ
それから数十分ほど、コーヒーブレイクに興じる。
案の定、コーヒーはぬるくてあまりおいしくなかった。
だが先輩はぬるい方が飲みやすいとおっしゃっていた。
そもそも自分で作ったジュースや水以外は、あまり好きではないらしい。
先輩の作ったジュースの味.....。
想像を絶するな。
「よし。決めた。進むぞ。」
空になったコーヒー缶を握りしめながらそう言う。
「そう...ですよね。世界を元の状態に戻さないといけませんよね。」
「いやちがうな。正直言うと、世界のことなんてどうでもいい。単に、私の父と名乗るやつが、どんなことをしてきたのか少し興味がわいてきただけだよ。...ようするに知りたいだけってことさ。」
理由はどうであれ、やっぱり進むことになったか。
こうなることは薄々分かってはいた。
覚悟はできている。......多分。
二つ目の部屋へと入る。
部屋の中は、一つ目の部屋と対象的で真っ暗だった。
奥に何があるのかが分からない。
少し気味が悪いな。
カチッ
懐中電灯の電源を入れる。
部屋全体が光によって照らされた。
「本がたくさんありますね。図書館でしょうか。」
「そんなにいいものでもないらしいぞ...。本の表紙を見てみろ。」
“Human experimentation”と書かれてある。
「やばいですね。」
「....お前意味分かってないだろ。見栄をはるな。」
「うっ。」
まあ、まだ高一だから読めなくて当たり前だよな...。
全国の高校一年生ら諸君よ。
そうでなくては困る。
「これは人体実験って意味だ。ここにある本の全ての黒色の表紙にこの文字が刻まれている。おぞましいな。...しかも生け贄とかいう言葉もでてきている。なるほどな。オカルト的な実験もやっていたということか。」
本棚を照らしてみると、ぎっしりと黒色の本が詰まっていた。
あれが全部人体実験の記録なのか...。
考えただけでも、ゾッとする。
いや。あそこに白色の本が紛れている!
「先輩。これって....。」
手に取って見てみるが、表紙にはなにも書かれていない。
「むっ!一つだけ白色だな。」
大方が、英語で書かれた意味不明な実験記録だった。
しかし、あるページに目がとまる。
そのページだけなぜか日本語で書かれていたのだ。
~~~~~~
個体番号2090E01の作成に成功した。
この霊体の生命エネルギーは憎しみ。皮肉なことに私に対する憎しみという感情が、この霊体を生かし続けているのだ。
素晴らしい。
実に面白くて、滑稽でそれでもって哀れな存在だ。
この個体名は花言葉をもじって、クアということにする。
個体番号2090E00の作成に成功した。
01の後継個体である。ヤツにとっての生命エネルギーは怒り。最初はものすごいエネルギーを秘めていた。しかしながら、怒りとは一過性のもの。すぐに冷めてしまう。
よって生まれてから数日で、消滅するだろう。
一応データとして、コンピュータに保存する。
使い物にならないとは思うが。
01の後継個体として作り出したが、とんだ駄作だ。
よってナンバリングを00とする。
名前はトリカブト。
~~~~~~
「この資料によれば、もう一体はコンピュータに保存されていることになっているな...。」
コンピュータに保存してある?
そういえば、ここに始めて来た時に出てきた怪物も、最初はコンピュータに保存されていたな。
そいつのことだろうか?
てっきり俺がもう一体の霊体なのだと思っていたのだが...。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます