第42話【確率超過】

 さて、問題はどのくらい使えば良いかという事だが。

 あれこれ考えるのもめんどくさいしひとまずここまで追い詰められたことに経緯を払って1ジル使ってやろう。


「さて、葵。楽しかったが、相手が悪かったな。金の力は全てを凌駕する! 食らえ!! 【札束で殴る】!!」

「なんだぞれは! はっ! どんな攻撃だって私にダメージを与えることは出来ないぞ!! ぐはぁっ!?」


 俺がスキルを使うと、俺の右手に馬鹿みたいにデカい札束が握られていた。

 大きさの割に重さは感じない。


 それで思いっきり葵の頬を殴る。

 いや、正確にはデカすぎて体全体を殴って吹っ飛ばした。


【札束で殴る】

ジルを使い敵を殴る。使用するジル/(敵のレベル×10000)の確率で敵を気絶状態にする。使ったジルは消える。


 俺もこれを誰かに使うのは初めてだったし、覚えてすらいなかった。

 だが、これはダメージを与えるスキルじゃないから【見切りの極意】で無効にはできない。


 そして問題は敏捷差による確率の変動だが、葵のレベルは今65、65万あれば100%になるところをその100倍以上の金をつぎ込んだ。

 いくら敏捷差があったとしてもこれでは回避は無理だろう。


「え!? ちょっと!? 葵ちゃん大丈夫!? 何したのさ! ショーニン!!」

「はっ! 教えてやるわけないだろ? と、ロキも葵も言ってたぞ?」


 これで葵は気絶、つまり何も出来ない状態だ。

 アイテムの使用は禁止されているから、メンバーが起こすこともできない。


 回復職が居ないのが災いしたな!

 これで俺の勝利だ!!


「ということで、面白い戦略を見つけてくれたお礼に、ロキたちにはこれを使ってやる」

「え……ちょっと。別にお礼はいいかなー?」


「お構いなく! 【金に目が眩む】!!」


 出現したコインが光り輝く!

 こっちも大幅に確率超過させた大判振る舞い!!


「うわぁあああ!?」

「目がぁ! 目がぁ! ああ! あああぁぁぁぁっ!!」


 ということでみんなめでたく見えなくなったところで……【金をばら撒く】!

 無数のコインが俺を中心に撒き散らされる。


 ロキたちのメンバーにタンクはいない。

 いや、スルトがそれっぽかったか?


 そういえば、なんであいつだけいないんだろうなぁ。

 まぁいいか。


 俺の攻撃でロキ以外はめでたく倒れた。

 てかなんでロキだけ生きてるんだ?


「さすがだね。ショーニン。葵ちゃんと俺のコンボなら倒せると思ったんだけどなぁ」

「いや、正直危なかった。よくあんなの考えたな。もし気絶をすぐ起こせる回復職が居たらやばかったな」


「なるほどね。回復職がちょうど辞めちゃったんだよね。それ入れたのが葵ちゃんだったんだけど、上手くいくと思ったのになぁ」

「まぁ、葵が居なかったら速攻で勝負が決まってたし、しょうがないな。それよりもなんでまた生きてるんだ?」


 二人きりになった広場でまるでイベントが終わったかのように俺らは自然に話し込む。

 まだ、プレイヤーは残ってるだろうが正直こいつら以上に苦戦させてくれる相手がいるとは思えない。


「あー、最後の悪あがき。【擦り付け】っていうスキルだよ。一回だけダメージを敵に擦り付けることができるんだ。もちろん多用はできないスキル。これでネタ切れ」

「そうか。そんな隠し玉も持ってたんだな。それじゃあ、敬意を払って俺の最大攻撃で倒してやるよ」


 そう言うと俺は【ドッペルゲンガー】と【ヘルフレイム】を順に使う。

 無数の炎が俺を中心に円形に立ち上がり、ロキを包む。


 一度目の攻撃で既に倒れていて、二度目の炎は誰も居ない広場を照らす。

 既に残りのプレイヤーを倒しても俺のポイントに到達するのは不可能。


 という事は、あと完全に消化試合だな。


『あーっと!! 全ての攻撃を見事に見切り、優勢に立っていたと思われていたロキ選手と葵選手! 葵選手は無慈悲にも札束で殴られ、気絶してしまいました!! 残されたパーティメンバーもそのまま攻撃するのではなく、失明させてから倒すという極悪非道さ! 悪魔ではありません! 魔王だー!! 遺ったロキ選手もオーバーキルの上の更に追い討ち!! 心というものがないのかー!?」


 まじでこのサキってやつなんなんだよ……。

 後でクレーム入れるぞ、本気で。


「まぁ、そんなん気にしててもしょうがないな。三人はまだ無事か」


 あいつらとそろそろ合流するかな。

 というか、自分で言うのもなんだけど、よくここまで生き残ったな。


「ん? お前らもやるの?」

「聞きしに優る強さだな。ショーニン。だが、それも終わりだ」


 あれ、こいつロキのパーティメンバーのスルトって奴だよな?

 他に五人メンバーがいるな、っておいおい。


「スルトってロキのメンバーじゃなかったのか? なんでジェシーやサンドラと一緒にいるんだ?」

「そんなことはどうでもいいだろう。今は俺がリーダーだ。そしてお前では俺らには勝てん。今までの戦いを見てて確信した。諦めろ」


 なんだ、この自身は……まぁ、はったりだろ。

 勝てるなら最初から挑んできてるはずだ。


 まさかこっちの手札を見てたとかそういう事か?

 いや……考えすぎだろ。


『おーっと!? 魔王ショーニンに挑むパーティが再び現れました!! スルト選手のパーティです! 行けー! やっちまえー!! お前は魔王を倒す勇者だー!!』


 まじでこいつ……後で覚えてろよ……。

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