第25話【吸血鬼系もふもふワンコ】

 俺はひたすらに狩り続ける。

 モンスターもプレイヤーも。


 もちろんプレイヤーは向こうから攻撃を仕掛けて来たやつだけだ。

 色々と言いたいことを言うやつ、問答無用で攻撃を仕掛けてくるやつ、色々だ。


 俺はそいつらを無言で殲滅しながら、ひたすらレベルを上げる。

 採算度外視の効率優先だ。


 俺が今狩るモンスターを選ぶ基準は二つ。

 一つは時間当たりの経験値効率がいいこと、もう一つはその種族のスキルを持っているかどうかだ。


 とにかくレベルを60にすること、そして全ての種族でダメージ上昇スキルを取ることに注力する。

 レベルに関しては知識を少しでも上げるためだ。


「うりゃああああ! いい加減くたばりやがれー!」


 振り向きざまに見えたHPに応じたジルを使う。

 今では数が減ったものの、最初はどこに行っても正義気取りの自称ヒーローが攻撃を仕掛けてきた。


 おかげで既にプレイヤーに対するダメージ上昇スキルは三つとも手にした。

 高レベルの近接職だと一撃で倒すのは難しいが、それでもかなり狩りやすくなった。


「くそ……ここで俺を倒しても、第2、第3の俺がいつかお前を……ぐふっ」


 お前が何人もいたら怖いだろ。

 迷わず成仏してくれ。


 そんなことを毎日繰り返していたら、ヒミコからメッセージが届いた。

 どうやら頼んでいた服ができたらしい。


 あれからログインしたら、まずはアトリエの様子を見に行っているが、目に見える嫌がらせは止まったようだ。

 俺は扉を開け、中のヒミコに挨拶をする。


 ヒミコから、連絡を向こうからするまでは会いにもメッセージもしないでくれと言われていた。

 たった一週間だけど、ずいぶん久しぶりに感じる。


「ショーニン! 出来ましたわ!! 予定より少し時間がかかってごめんなさい。でも、おかげで最高の出来ですわ!」

「ありがとう。ヒミコ。早速装備してみるよ」


 ヒミコの頭の上に表示されるレベルは60になっていた。

 俺同様、ヒミコもかなりやりこんだに違いない。


 アバターは所詮作り物だから見た目は健康に見えるが、聞こえてくる声からは疲労が感じられる。

 今まで世話になったこれもヒミコ作の装備にお礼を言ってから、新しく受け取った装備を身に付ける。


 良く考えれば俺がこのゲームで着ている服は、初期装備以外全てヒミコが作ってるな。


 俺は頭の中でヒミコに感謝しながら新装備の見た目を確認する。

 上質の、まるで映画に出てくる貴族が着ているようなスーツ。


 以前着た「バトラースーツ」とは似て非なる見た目。

 仕える者ではなく、支配者のそれだった。


 顔には目元を覆う白い陶器の仮面が付いている。


不死王の正装ヴァンパイアキングタキシード(カスタマイズ)】

不死を統べる王のみに許された正装。

装備制限:レベル55

物防:30%上昇、魔防:30%上昇

効果:状態異常防止30%、反射(1/2)、吸収(1/100)、HP100%上昇、スキル効果10%上昇


不死王の靴ヴァンパイアキングシューズ(カスタマイズ)】

装備制限:レベル55

物防:20%上昇、魔防10%上昇

効果:状態異常防止20%、反射(1/2)、吸収(1/100)、HP100%上昇、浮遊


不死王の仮面ヴァンパイアキングマスク(カスタマイズ)】

装備制限:レベル55

物防:10%上昇、魔防:20%上昇

効果:反射(1/2)、吸収(1/100)、HP100%上昇、知識20%上昇、スキル「ドッペルゲンガー」取得


 着替えた俺を見てヒミコは絶賛の声を上げた。

 恐らく想像した通りのできだったのだろう。


 ちょうど計ったかのようにミーシャからメッセージが届く。

 どうやらあちらにも動きがあったようだ。


「それじゃあ、言ってくるよ。ヒミコ。終わったらまた街であのケーキセットを食べよう」

「終わったらって、どこに行きますの?」


「きまってるだろ。最後のダンジョンだよ」

「まぁ! 相変わらずせっかちなんですのね。うふふ。分かりましたわ。ワールドニュースにショーニンの名前がまた表示されるのを楽しみに待っていますわね」


 俺はロキに今から最難関ダンジョンに向かうことをメッセージに書いて送った。

 ロキにはあの日以来、色々と面倒事を頼んでいる。


 オンラインゲーム、もっと言えばネットにあまり詳しくない俺には難しいことを、ロキは二つ返事で快諾してくれた。

 昨日の時点で準備はできたと聞いている。


「やぁ。ショーニン! まさかあんたが本当にあの時の誓を果たすなんて思ってもみなかったよ。それもこんな短期間に」

「悪いな、ロキ。面倒事に巻き込んでしまって。今日はよろしく頼む。もうあっちは向かっているって話だ」


「大丈夫さ。実際僕もあのやり方にはムシャクシャしてたし。それにこの目で君の偉業を見届けることができるなんて。嬉しい限りさ」

「ありがたい。えーっと、それで、パーティってどうやって組むんだ?」


 ロキに頼んだ最後のお願いは、俺のダンジョン攻略に同行してもらうことだった。

 正確に言うと、同行してもらってあることをしてもらうことが目的だ。


「あはは。そのレベルまでパーティを一度も組んだことがないってのもすごいね。ということは、初めてのパーティってことだね! いやぁ嬉しいなぁ」

「言ってないで、どうやるか教えてくれ。どうすればいいんだ?」


 ロキに教えてもらって俺はパーティを組んだ。

 今回はリーダーは俺じゃなければいけなかったから、ロキに誘ってもらうことができない。


 前にジェシーたちのパーティが攻略した際に流れた通知では、リーダーのジェシーの名前しか表示されなかったからな。

 ロキには悪いが、俺の名前が通知されることも、今回の目的には必要だ。


「うわっ! なんだいそのHP。体力極振りでもそんなにいかないんじゃないの?」

「ん? ああ、これか? ヒミコに作ってもらった装備と、この前ボスから手に入れた装飾品のおかげだな」


 今までは防御を上げてダメージを減らしてきたが、今回はHPを上げて耐久力を上げた。

 装備に付いている効果の吸収は、与えたダメージの100分の1、つまり1%分回復する。


 更に、ヒミコの案で付けてもらった反射は、食らったダメージの2分の1、こちらは50%が攻撃した相手に跳ね返る。

 それが装備全てに付いているから、効果はその三倍だ。


 プレイヤーとモンスターのHPやお互いが与えるダメージの差が激しいため、吸収と反射で割合が大きく違う。

 しかし、ヒミコの話によると、プレイヤーに対する攻撃でも同じ割合が適用されるらしい。


 モンスターに与えるダメージの10分の1しかプレイヤーには当たらないが、それで食らったダメージの反射割合は10分の1されない。

 つまり俺が食らったダメージの150%をプレイヤーは反撃として食らうのだ。


 別に装備を頼んだ時は、プレイヤーからの攻撃なんて深く考えていなかったが、これで今後俺を攻撃するやつは減るだろう。

 「マザーコア」の体力100上昇のおかげで防御力が前ほど紙ではないが、それほど高くもない。


 レベルが高く、攻撃力に自信があるやつほど、自分の与えたダメージに苦しめられるということだ。

 俺がそのことを伝えるとロキは笑いながら言葉を返してきた。


「なるほどね。それじゃあ、安心して『受け流し』ができるね。よろしく頼むよ!」

「そのスキルの効果を聞いた時はどうかと思ったが、意外なところで役に立ったな」


 ロキの持つスキル「受け流し」は、任意のパーティメンバーの誰かに、自分が受けるダメージを擦り付けるという効果だった。

 俺がロキの食らうはずのダメージを全て肩代わりするっていうことだ。


 しかし、そのおかげでまだレベルが60にすら達していないロキもダンジョンに安心して連れて行くことができる。

 ミーシャに用意してもらった「滋養強壮薬」と大量の「蘇生薬」もきちんと確認した。


 さて、最後のダンジョンに向かうとするか。

 急がないと大事な場面に遅れてしまうかもしれないからな!

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