第24話【やってはならぬこと】
新しいスキル「金を食う」の効果が分かったので、俺はログアウトし飯の支度を始めた。
残るダンジョンはあと一つとなった良い気分から、奮発して汁物も作る。
具はもちろんもやしだ。
味付けは醤油。すまし汁ってやつだな!
腹が脹れたので寝る支度を済ませ、せんべい布団に体を潜らせる。
「しかし、予想以上の効果だったな。これなら何とかなりそうだ」
色々試した結果「金を食う」の回復量は少しややこしかった。
使う金額が10から1万ジルまでの間は、使った金額の10分の1の数値回復。
1万を1超えるとそこから割合回復に変わる。
10万で最大HPの100%を回復する。
これは俺が考えている新しい装備構成にとってありがたかった。
売ってる回復薬はどれも数値回復、この前見た文彦とかいう「神官」が使ってた回復魔法も数値回復だった。
「よーし。装備ができるまで少しあるからな。それまでレベル上げでもするか。あ、あとどんな種族のボスが来てもいいように、種族のキル数稼いどかないとなぁ」
明日から始まる最終ダンジョンに向けてのことを楽しみにしながら、俺は心地よい眠りについた。
☆☆☆
いつもインフィニティ・オンラインをお楽しみいただきありがとうございます。
お問い合わせいただいた件、弊社にて記録を遡って確認させて頂きましたが、ご指摘のプレイヤーの方について、問題となる行為は確認されませんでした。
なお、これ以上の内容につきましては開示できかねますのでご理解のほどよろしくお願いします。
これからも引き続きお楽しみいただくよう、よろしくお願いいたします。
運営チームお客様お問い合わせ窓口
『ふ、ふざけるなぁ!? 絶対チートだろ! くそっ!! 使えないクソ運営め! まぁいい。僕の書き込みで皆にはちゃんと伝わってるからな。ざまぁみろ! あのチート野郎!!』
☆☆☆
眩しい……あ、もう朝か。
俺は枕元に置いてある、目覚まし時計を引き寄せる。
大学で一人暮らしを始める俺に寝坊しないようにと母親が買ってくれた大事な時計だ。
「あ。朝じゃなくてもう昼か。しまった。学校休みが続いて、曜日だけじゃなくて時間の感覚まで狂ってきたな」
もそもそと起き出し、顔を洗って髪をとかす。
着替えたら、早速インフィニティ・オンラインにログインする。
「ああ。前回ログアウトしたところは、狩場だったか」
昨日スキルの確認をし終わったらすぐにログアウトしたため、初心者用狩場の中に俺はいた。
一旦街へ帰るか、それともこのままレベル上げに向かうか一瞬だけ思案している俺の目の間に、複数のプレイヤーが集まってきた。
レベルも装備も職業もまちまち。
しかし、全員が初心者などとうに卒業したプレイヤーたちだ。
「やっと見つけたぞ! このチート野郎! 恥を知れ!!」
またか……なんなんだ、昨日から。
どうやらこいつらも俺をチート野郎と決めつけ、正義の鉄槌という名のPKを目論むヒーロー様らしい。
一通り目の前のプレイヤーから攻撃を食らったあと、お返しに「ヘルフレイム」で焼き尽くした。
直接攻撃せずに皆にバフと言われる強化スキルを使ってたヤツもいたが、同罪でいいよな?
きちんと全員が倒れたことを確認した後、俺は新しいスキルを覚えていることに気付く。
【人斬り】
プレイヤーを10人倒す。
効果:プレイヤーに対するダメージ10%上昇
ほぉ。モンスターだけじゃなく、プレイヤーにもあるんだな。
そしてさすがに必要な数はモンスターに比べ少ない。
こんなスキルが必要になることはこれっきりないと願いたいところだが……ん?
インしてからいきなり襲われたから気付かなかったが、何かメッセージが来てるな。
ミーシャからだ。なになに?
『これ見たらすぐにヒミコの所向かって! あんたのせいで酷いことになってるよ!』
なんだ?
イタズラだったとしたらタチが悪いな。
しかも、昨日今日の言いがかりで、あまり気分が良くないし。
まぁ、進み具合と足りないものがないか聞くだけでも無駄じゃないし、行くだけ行くか。
俺はイストワールにあるヒミコのアトリエにたどり着き、目の前の光景に言葉を失った。
アトリエの辺り一面にモンスターのドロップアイテムが、足の踏み場どころかアトリエに近づくことも困難なほど積まれている。
呆然としている俺に気付いたのか、向こうからミーシャが駆け寄ってくる。
ひとまず何があったのか、聞かないと。
そもそもヒミコは中なのか?
「おい、ミーシャ。あれはいった……」
全部言い切る前に、目の前で原因を説明してくれるやつが現れた。
いきなりアトリエの近くに大量のアイテムを、まるで不法投棄するみたいに捨てて行ったやつがいたのだ。
「なんだあのやろう。てめぇ! って、おいおい!?」
そのまま立ち去ろうとしたやつを捕まえようとしたら、驚く光景が広がっていく。
いまのやつだけじゃなく、次から次へと色んなプレイヤーが同じように周りにアイテムを捨てていくのだ。
「おい、ミーシャ! 何がどうなってる!?」
「こっちが聞きたいよ! 皆、あんたをチート野郎、それに手助けするヒミコも同罪だって! あんた、一体何したのさ!?」
「なんだと……? ちょっと待ってろ! すぐ戻る!」
ログアウトして、慌ててネットの掲示板を検索する。
あった! これだ!
「くそっ! なんだよこの書き込み! 動画の内容は事実だが、書き込んでる内容はまるで逆だぞ!!」
再びログインすると心配そうな顔をミーシャが向けてきた。
俺は安心させるために「大丈夫だ」とだけ言うとドロップアイテムの山へと近付く。
ざっと見た限りほとんどが売ってもゴミみたいな価値しかないアイテムだ。
多少価格の高いアイテムがあるが、だいたいそれは見た目が悪いものばかりだった。
俺はためらうことなく落ちているアイテムを片っ端から拾っていく。
拾いながらぐるりとアトリエの周りを一周すると、山のようにあったアイテムはきれいさっぱり消え失せた。
驚きの声が辺りから上がる。
前にヒミコが言っていたが、普通は力に応じた積載量ってのがあるらしい。
力をほとんど上げてないヒミコやミーシャがいくら頑張っても、多勢に無勢で回収して処分するよりも積み上がるのが早いだろう。
しかし「商人」である俺にはそれがない。
目の前のアイテムを全て収納すると、周りに聞こえるようにわざと大きな声で叫んだ。
「いやぁ! 誰か知らないけど、こんなにアイテムをプレゼントしてくれて嬉しいなぁ! 一つ一つは安いけれど、これだけ集まったら随分な金額になる。誰だか知らないけど、ありがとう!!」
間違いなくこれは俺が原因の嫌がらせだ。
ここで怒っても相手はますます図に乗る。
止めさせるならむしろ感謝するくらいの喜びを見せることだ。
例えはらわたが煮えくり返っていても、決して悟られてはならない。
俺の声を聞き、アイテムを投げ捨てて行ったプレイヤーの半数が悪態をつきながら去っていく。
残りの半数は便乗しただけか、何かのイベントかと勘違いしたやつらか。
明らかな敵意を見せたやつらのことは、名前を記録しておく。
あいつらは俺が名前も分からないだろうとたかを括ってるだろうが、ステータス情報まで丸見えだ。
「ショーニン!」
ミーシャが駆け寄ってくる。
一度だけ頷き、俺は扉を開けた。
「ヒミコ! 無事か!?」
「え? あ、ショーニン! ミーシャも! 私もう何が何だか分からなくて」
ヒミコは外の出来事に気付きながらも、ひたすら俺の装備を作り続けてくれていたらしい。
思わず俺はヒミコを抱きしめる。
「え? ちょ……え? ちょっと、ショーニン?」
「すまない。俺のせいでこんな思いをさせて。もう少しだけ辛抱してくれ。なるべく早くケリをつけるから」
それだけ伝えると、俺は狩場へ急いだ。
やることは無数にある。
恐らく書き込みしたクソ野郎はあいつだろうが、ゲームだろうと現実だろうとやってはいけないことをやらかしてくれたな。
必ず後悔させてやる!
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