第7話【ステ振り】

 俺は起き出し朝飯を作ると、いつものようによーく噛みながら食べる。

 今日も塩で味付けしただけのもやしの卵とじ、それとも白い飯だけだ。


 最後に肉を食ったのはいつだったか……とりあえず覚えてないくらい前だな。

 なるべく食べた栄養素を取り入れようとよく噛んで食べる習慣にも慣れた。


 満腹感も得られるし一石二鳥だな。

 本当はもうちょっと食費を削りたいけど、さすがに病気にはなりたくないからな。


「よーし。飯も食ったし。今日もやりますかねー」


 俺はゲームの電源を入れる。

 意識が途切れ、再び獣人の姿と入れ替わる。


「さて……そういえばステ振りと他の装備まだだったなー。どうすればいいんだろ」


 俺は自分の画面を開く。

 そこには色々な文字が並んでいる。


「なんか昔読んだ小説だと、大抵極振りするのが強い! みたいな感じだったんだよなぁ」


 俺は各ステータスの説明を見る。

 まずは力。主に物攻に影響するらしい。


 あと昨日のオークションで見た感じだと、重たそうな装備を身に付けるのに必要な感じだったな。

 物攻ははっきり言って意味ないけど、装備は必要だから保留かな。


 次に体力。物防と魔防、それとHPに影響する。

 色々上がってお得っぽいが、多分防御は装備で補う感じだな。


 痛いのは嫌だけど、こっちを上げると結局装備が貧相になってあまり意味無いのかな。

 これも保留。


 敏捷。命中や回避、スキルの成功率に関係するらしい。

 うーん。上げまくったらモンスターの攻撃全部避けられたりするのかな。保留。


 知識。魔攻、MPが上がる。これは要らないかな。

 他に各種効率が上がったり情報が増えるって書いてあるけど。


 最後が運。こっちはざっくりと各種確率が上昇するとだけ書かれている。

 お。これを極振りすればレアアイテム拾いたい放題か?


「いやいやいや。待てよ。昨日のドロップを思い出せ。あんだけ狩ったのに、素材以外のレアドロップ1個だけだったろ」


 俺は首から下げているロックビートルから得たペンダントを触る。


「運の効果がどれくらいか知らないけど、必ず100%とかにはならないだろ。危ない、危ない」


 俺は再度ステータスとにらめっこする。

 そういえば、これどういうことだろうな。


 俺は知識の説明をよく読む。

 各種効率が上がる、と書かれている。気になるな……。


「えーい! 考えてても仕方ない。自分を信じろ! 俺はこれの極振りで行くぞ!!」


 俺は持っていたポイントを全て知識に振り分ける。

 昨日寝るまでに上がったレベルは20。ポイントは95ある。


 初期値を合わせてちょうど100。これでどれだけ変わるのか。

 俺はおなじみロックビートルで色々検証してみることにした。


「お? なんだ? おー。これは便利だな!」


 ロックビートルの居る狩場へと向かう途中で見かけたモンスターの頭の上にLvという文字と数字が見えた。

 倒しまくったロックビートルやワームフライヤーにも表示されていたが、どうやら倒した数に応じて得られる情報が、知識を上げるだけで徐々に得られるようだ。


 徐々にといったのは、既に全ての情報が見られるロックビートルと表示が違ったせいだ。

 これは思わぬ効果を得たみたいだ。


「ロックビートルとかはHPも数字で見れるからな。知ってたからあんまり意味なかったけど。知識上げまくったらそれも見れるのかな。いちいち毎回モンスターのHPを確認する必要なくて助かるな!」


 俺は自分の選択に既に満足しながらロックビートルの狩場までたどり着いた。

 さて、検証を始めますか。


「さーてと。どんな効果が出るのかな」


 俺はロックビートルに向かって「銭投げ」を繰り返す。

 使う金額を変えながらダメージを見ていく。


「なるほど。思った通りだが、上がり幅は小さいな。もっと上げれば変わってくるのかな?」


 念の為、同じような攻撃を近くにいた別のモンスターで試す。

 虫属性じゃなければなんでもいい。そういえばカエルが虫属性ってどういうことだ?


「お。やっぱりそうか。きっちり……かどうかは分かんないけど、効率上昇分が10%上がってる感じだな」


 表示が変わるわけじゃないから、あくまで予測だが、俺は自分の検証結果に確信を持つ。

 例えば、ダメージが10%アップする場合、さらにそれの10%、つまり合計で11%ダメージアップする。


 もっと知識を上げられれば、その割合も増えていくのだろう。


「よーし。とにかくステータスは知識に極振りだな!」


 ステ振りの方針が決まったお祝いに、辺りのロックビートルを殲滅してから俺は街へと戻った。

 素材を店売りすると効率アップの恩恵はこっちでも有効なようだ。


「お。えーっと、そうそう。ショーニン。覚えやすくていいね。おはよう!」

「あ、ロキか。おはよう。早いな」


 俺は今度こそ装備を買いに行こうと露店が集まる広場に向かう途中、ロキが話しかけてきた。

 それにしてもこいつよく街に居るな。暇人か?


「装備は相変わらずか。この前の大剣売れなかったの?」

「うん? あ、ああ。いや売れたよ」


 そういえばあの大剣、適当に簡易オークションに出してたな。

 なんかインした時に通知があった。大した金額じゃなかったけど。


「なら、その金で装備買いなよ。ガチ勢じゃないならさ。見た目にこだわるのもいいよね。もちろんカスタマイズでどっちもってのもできるけどさ」

「カスタマイズ? あ、また聞いちゃったな」


「いいよ、いいよ。あんた今日もインしてるってことは、とりあえずそのキャラで頑張っていくことにしたんでしょ? 俺そういうの好きなんだよね」

「うん? まぁ、そうだな。このキャラで行けるところまでいくつもりだけど。好きってどういうことだ?」


「ネットで調べると色々情報が出てくるじゃん? そうするとさ、最強とか最短とか、みんなおんなじ職業やステでおんなじ行動するわけよ」

「まぁ。その方が効率いいだろうな」


「でもさ。俺は個性持ってるプレイヤーが好きなんだよね。我が道を行くって言うかさ。自分の選んだキャラで最強への道を模索する、みたいな。逆にアプデの度にコロコロキャラを変えるプレイヤーは嫌いだな」


 ああ。なるほどな。

 初めて会った時、ロキが不機嫌になったのは情報をタダでもらおうとしたからじゃない。

 

 ロキが気に食わなかったのは、自分で考えずに人に教えてもらった情報で最強になろうとしたことだったんだな。

 逆にネタ職と言われている「商人」で頑張ろうとしている俺には好感を持ったわけだ。


「大丈夫。俺はこのキャラで天下を取ることに決めたからな」

「え!? 天下って、何する気?」


 そういえば、天下を取るって決めたけど、具体的に何するかは特に決めてなかったな。

 その時テロップにプレイヤーがボスを倒しダンジョンを攻略した表示が流れた。


 ああ。そういえば、フィールドの他にダンジョンってのがあって、そこにはボスがいるんだっけか。

 お、今のダンジョン攻略、初達成って出てるな。


「ひとまず最難関ダンジョンを初攻略するってのはどうだ?」

「え? あはははははは! マジで? いいね! やっぱりあんた、面白いよ」


 ロキは地面にうずくまり、拳でその地面を叩き続けている。

 こいつの笑いが激しいのはいつもの事だからな。


 よし。目標が決まった。

 俺はこの職業と知識極振りステータスで、最難関ダンジョンの初攻略を目指すぞ!

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