第5話【オークション】
目の前におびただしい数のコインが現れ目の前のムカつく奴らに降り注ぐ。
まさに弾幕ってやつだ。しかも避ける方法はない。
「うわあああああ!!」
「ぎゃあああああ!!」
叫び声を上げながら二人はその場に倒れ込む。
プレイヤーは倒してもモンスターみたいにポリゴン化しないのか。そりゃそうか。
あ。消えた。
倒されて拠点に戻ったんだろうか。
二人の姿は一瞬で消えてしまった。
「ふぅ。ったく。無駄な出費だったぜ」
ムカつきに任せてつい倒してしまったが、所持金がかなり減ってしまった。
まぁ、既にアシッドフロッグは十分と倒したし、相場操作の金もまだ十分あるから大丈夫だろう。
「ん? なんか見た事ないアイテムがあるな」
アイテム欄を見ていたら武器と回復薬がひとつずつ増えていた。
こんなのさっきまでなかったし、当然買った覚えも拾った覚えもない。
不思議に思ってログを確認する。
するとそれに関する表示があった。
「ああ。なるほど。PKすると相手のアイテムをランダムで貰えるのか。大剣がピョン吉とか言うやつの。回復薬はPontaのだな」
俺は拾った武器の詳細を開く。
【ギャララブレイド】
ボスモンスター「ギャララオス」から作られた大剣。
物攻:50
効果:力10上昇。壊れにくい。両手装備。
「ほー。いわゆるボス武器ってやつか。性能は最初の方ならこんなもんなのかな?」
俺は大して興味も持てず、もう一つの方の回復薬を開く。
【初級ポーション】
使用すると即座にHP100回復する。
「あー。こっちは本当にただの回復薬だな。店売りしてるやつだ」
それにしても複数持っていても一個しかもらえないなら、ドロップ狙いでPKはリスクの割に合わないかな。
逆に武器を落としたピョン吉はすこぶる運が悪いな。ご愁傷さま。
さて、一旦街に戻るか。
ひとまず所持金を補充しないと。
露店で前回のようにアシッドフロッグのドロップアイテムの相場より高いやつだけを上から順次買い占めていく。
そうすると今度は前回のワームフライヤーより早く値段が釣り上がっていった。
「なんか相場より低いやつは軒並みキャンセルされてどんどん高値設定に変わっていくな。そりゃそうか」
相場は刻一刻と変化していく。ワームフライヤーの時は何が起こっているか分からないプレイヤーがほとんだっただろう。
しかし今度は同じ現象が起きてるから、期間限定だと分かりながらも高値で売りぬこうっていう魂胆になるのは不思議じゃない。
「お。相場が少し上下してるな」
上がりっぱなしだった相場が少し減ったり増えたりしている。
増えるの俺が買っているからだが、減るのは転売目的か、本当に必要なプレイヤーの在庫確保だろう。
「まぁ。ほとんどが転売目的だろうな。前の知ってるなら、そのうちすぐ落ちるのが目に見えてるんだから」
前回よりもきっと下がるのが早いだろうが、俺はそれなりに上がったところで貯めてたドロップアイテムを全て店売りした。
これで所持金は1000万ジルを超えた。
何度か俺が買わないのに買い占められた時はびっくりしたが、すぐに同じ数がより高い値段で売りに出されたからまさに転売ってやつだろう。
最後にババを引いたのが誰か知らないが今頃青ざめているんだろうな。
所持金と今までに使った金が増えたのでまたスキルを手に入れた。
【浪費家】
消費したジルが500万ジルを超える。
効果:ジルを消費するスキルの効果が10%アップ。重複可。「商人」専用スキル。
【倹約家】
所持金が1000万ジルを超える。
効果:ジルを消費するスキルを使う際に10%節約する。「商人」専用スキル。
とにかく金を使えば使うだけ、貯めたら貯めただけ増えるのかな。
さすがにどっかで頭打ちになるだろうが。
「そういえば、この大剣どうすっかなぁ。相場が出てないんだよなぁ。気づかなかったけど、相場が確認出来るのって素材系アイテムだけなのかな」
「お? それ『ギャララブレイド』じゃん! よくそんなの手に入れたな」
試しに装備してたら後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには最初に声をかけてきたイケメンの姿があった。前にあった時よりも装備が若干変わっている。
「あー。えっと。ごめん。名前なんだっけ? 拾ったって言うか、俺を襲ってきたやつを返り討ちにしたら手に入ったんだよ」
「なるほど。PKか! ほら。言った通りでしょ? その姿は間違って襲われやすいって。あ、俺の名前はロキね。あんたは?」
「ロキか。俺はショーニン。いや、このアバターのせいって言うかなんて言うか」
「あはははは。お前職業だけはじゃなくて、名前もショーニンなの!? どんだけ好きなんだよ!」
初めに会った時も思ったが、ロキは笑い上戸なんだろうか。
俺の名前がツボにハマったらしくヒーヒー言いながら笑っている。
「あー。ごめんごめん。人の名前で笑うのはダメだね。悪かったよ。それで。そんな武器持ってるやつ返り討ちにしたってほんと? 大剣装備ってことは、剣士か騎士、あと戦士とか。とにかくバリバリの戦闘職でしょ?」
「職業は分かんないな。二人がかりで俺の職業馬鹿にしながら襲ってきたから倒してやったよ」
「まじか。どうやってやったのかは聞かないでおくよ。マナー違反だからね。ところでその武器自分で使うの?」
「いや。大剣なんて使って戦う職業じゃないしな。売るつもり」
「そもそも「商人」が戦う職業じゃないけどね! なら、露店かオークションだな」
「オークション?」
俺は初めて知る単語にオウム返ししてしまった。
「ああ。正規版開始からのシステムだけど知らない? 露店と違って値段は買い手が付けて、最高額をつけたプレイヤーが買えるってやつ」
なるほど。まぁ。普通のオークションだな。多分あいつらの言い分じゃ売っても大した額にならなそうだから別にいくらでも売れりゃあいいか。
それよりむしろ買う方で見て回りたいな。
俺は未だに変えていない自分の装備をに目をやる。
毛並みのつややかな手脚が簡素な服から飛び出している。
「ありがとう。ちょっと見に行ってみるよ。あ、情報貰うだけは嫌いだったんだっけ。うーん。あいにく持ってるアイテムは『初級ポーション』だけだし……金のやり取りってできるんだっけ?」
「あ? ああ。この前の気にしてんのか。冗談、冗談。つーか、俺が勝手に話してるだけだし、オークションなんて教えても見返りもらうような情報じゃないよ」
俺が情報のお返し用をしようとしたのは、断られてしまった。
まぁ、いいや。今度なんか面白い話でも聞かせてやろう。
「それよりさ。装備変えないの? それって初期装備だよね? てかよくそんな装備でPKできたね」
「ん? ああ。ちょうどそろそろ金も溜まったし買おうと思ってたんだ。オークションを見学がてらいいのがあったら買ってみるよ」
「それがいい。正直このゲームは、っていうか他のゲームもそうだけど、装備は重要だからね。見た目も変わるし」
「ああ。それじゃ。行ってくる。ありがとな」
互いに手を振り別れた後、俺はオークション会場へ向かった。
プレイヤーが大勢集まり、目の間のアイテムを買おうと熱のこもった入札が繰り広げられている。
「おーすごい熱気だな。お祭り騒ぎだ。おいおいまじかよ。今のアイテム2000万もしたぞ」
既に落札されてしまったせいで、アイテムの詳細は見れなかった。
見た目は金属製の杖で、細かい装飾や巨大な宝石が目につく。
「今のはトップランカー辺りが買ったのかな。受け取りには来ないのか。なるほど、買ったってことを知られたくないってことか。俺だったら自慢して受け取った瞬間、上に掲げそうだけどな」
会場に入ってすぐの所に分厚い冊子が置かれていた。
手に取ってみると中にはこれから出品されるアイテムの一覧が書かれている。
冊子が置かれていた場所には俺が取り上げた瞬間に同じものが現れた。
リストは持ち出し自由らしい。
オークションには二種類あるらしい。
一つは簡易オークション。期限を決め設置し、その間にプレイヤーはいつでも入札ができる。
もう一つは俺の目の前で繰り広げられているオークション。
いつどのアイテムのオークションが始まるかは知ることができるが、入札は一定の時間だけ。しかも会場に居ないとできない。
「なるほど。大物はこっちに置くのか。時の運もあるけど、盛り上がり方が違うから、本当に価値のあるアイテムはこっちのが高く売れそうだ」
俺はひとまず時間が決められたアイテムの一覧に目を通す。
さすがに全財産注ぎ込むのは無理だが、どうせ買うなら最初からいい物を買った方が何度も買い換えるより得だ。
「あー! そうか。装備制限があるのか!」
俺はアイテムのリストを見て、自分の位置を思い知らされた。
装備のステータスも効果も魅力的なアイテムは、どれもレベルやステータス制限があった。
いくら金だけあってもやはりレベルを上げないと話にならないらしい。
俺は若干投げやりになりながらペラペラとリストをめくった。
「ん? 装飾品は制限が無いか低いのが多いな。お! これは!!」
俺は思わず見つけた装飾品の詳細を二度見し、更に見間違いかないか顔を近付けて再度確認した。
【隼のグローブ】
目にも止まらぬ速度を手に入れられる手袋。
効果:通常攻撃、スキルが一度で2回発動される。物攻、魔攻半減。
「これ、俺の考えが間違ってなければやばいアイテムだろ! えーっと、開催は今日の夜9時か。それまでできるだけ金貯めないと!」
俺は持っていたリストを席に置くと、急いで狩場に戻って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます