第3話【店売り】

 俺は一度インフィニティタウンに戻って、拾ったアイテムを全て店売りした。

 露店でだぶついたアイテムがすぐ売れる訳ないからな。


 もちろんさっき拾ったロックビートルのドロップアイテム、ロックプレートもをした。

 店売り価格は550ジル。露店相場の半額。初心者のそろばんの効果で10%アップしている。


 全部売って得た金は600ジル。これと初めに特典でもらってた残りの金60ジルが俺の今の全財産だ。


「よーし。十分だ。さっさとさっきの狩場戻るぞ」


 俺は再びロックビートルが密集しているフィールドへと移動する。

 いやがるいやがる。今の俺にはこいつらが金の塊にしか見えない。


「おりゃ!」


 そろばんで殴りつけながら、俺はスキル「銭投げ」を使う。

 金額は50ジル。そろばんから金が飛び出しすぐにロックビートルに当たり消える。


 ダメージ5が表示され、ロックビートルがポリゴンに変わり霧散する。


「よし!」


 俺は次のロックビートルに同じことを繰り返していく。

 金がなくなり、計13個のロックプレートが手に入った。


 俺はすぐさま街に戻るとまたアイテムを全て店売りする。

 そして得た金を持って狩場に戻りロックビートルを「銭投げ」で狩ることを繰り返した。


 街に戻る度に金がどんどん増えていく。

 いくら防御が高く当たらない相手でも「銭投げ」は固定ダメージだから関係ない。


 一撃で倒せるから手当たり次第に俺はロックビートルを乱獲した。

 「銭投げ」のいい所はもう一つあった。


 通常スキルを使用する場合はHPやMPを消費したり、クールタイムという使ってから次に使えるようになるまでの待ち時間がある。

 しかし「銭投げ」にはそのどちらもなかった。


 職業の初期スキルはどれもクールタイムが0に設定されているらしい。

 つまりHPやMPが切れるまで何度でも連続して使える。


 さらに「銭投げ」はジルを消費するので、HPやMPの消費も0だった。

 つまり金さえあれば永遠に攻撃を続けられる。


 レベルアップで上がるHPやMPの量がどのくらいか知らないが、店売りでも1匹につき差し引き500ジル手に入る。

 それを元手に10匹倒せるから、すぐに金が切れる前に周りのロックビートルが居なくなるまでになった。


 経験値も入り、俺はいつの間にかレベル8。

 もうロックビートルを倒してもレベルが上がらないところまで来ていた。


 ちなみに俺がロックプレートを店売りしたり、わざわざそろばんで殴りつけながら「銭投げ」をしているには訳がある。

 まずは店売りと露店の違い。


 露店は高額で売れるが、いつ売れるか分からないことと、大量に売ろうとすると売れ残るため価格を安くしなければ売れない。

 そうすると売れば売るほど価値が下がり、やがてロックプレートも他のドロップアイテムと差異がなくなってしまう。


 一方店売りは必ずすぐに売れる上に個数の実質的な上限はない。

 売ってもプレイヤーに渡るわけじゃないので、価値も下げない。


 人気が高く高額で一点物を売る時は露店の方がいいが、大量に売るには店売りの方がいい場合もある。

 ロックプレートは供給が少ないから高いだけで、おそらく供給が増えれば価格が簡単に下がるのは目に見えていた。


 次にそろばんで殴るをした理由。

 これは「銭投げ」で倒している所を他のプレイヤーに悟られないようにするためだ。


 バレて誰かに真似され、そのプレイヤーが露店で売りに出したら、俺が売らなくても価格が下がってしまう。

 いつかはバレるし俺のように思いつくやつがいるかもしれないが、今はダメだ。


 その後も俺はロックビートルの乱獲を繰り返し、気付けば所持金は50万ジルを超えた。

 ちなみにその間にいくつかスキルを手にした。


 ロックビートルを狩るのに夢中で気が付かなかったが、何かを達成すると得られるスキルがあるらしい。

 俺は新しく手に入れたスキルの詳細を開いた。


【虫の敵】

虫属性モンスターを100匹倒した証。

効果:虫属性に追加ダメージ10%。重複可。


【虫の天敵】

虫属性モンスターを1000匹倒した証。

効果:虫属性に追加ダメージ10%。重複可。


「おお! こうやってダメージ増えていくのか。あー。だからか。途中からダメージが6に増えての。おかしいと思ってたんだ」


 どうやら固定ダメージにも追加ダメージは効果があるらしい。

 しかし、40ジルだと切り捨て4しかダメージを与えられないから、結局同じように50ジルを使うしかない。


 おかしいと思って何度か40ジルを使ったことがあったから、切り捨ては間違いないだろう。

 まぁ、もっとでかいダメージを与える時にはかなり有用なスキルだな。


 他にもスキルを手に入れていた。こっちは職業専用スキルだ。


【大店】

アイテムを合計1000個売買する。

効果:店売り価格10%アップ。重複可。「商人」専用スキル。


「これもありがたいな。これも途中から売値上がってたからな。露店の相場を何度も見返しちゃったぜ」


 俺は調子に乗って更にロックビートルを乱獲する。

 ただ、さすがに飽きてきた。


 レベルも上がらなくなって久しいし、そろそろ次へ進むか。

 それにしてもステータスを何に振ればいいんだ。


「ん? 何かレアドロップが出たな」


 今倒したばかりのロックビートルが消えた後に、首飾りが落ちていた。

 拾って詳細を開く。


【ロックハートペンダント】

ロックビートルの魂が宿ったペンダント。

効果:物防、魔防255上昇。クールタイム10倍。


「おー。装飾品だ。よく考えたら俺ずっと装備も変えてないな。ってなんかすごい効果だな……」


 初期ステータスは全て5。レベル1上がる毎にポイントが5付与されて好きにステータスに割り振れる。

 俺は今レベル8だから35ポイント余っている。


 防御は防具の効果も合わせた数値だが、ステータスだけで単純に計算するとレベル50分を極振りしなくちゃいけない。

 クールタイム10倍のせいでネタ装備だが、俺にはその効果はデメリットになり得なかった。


 俺はロックハートペンダントを首から下げる。

 ステータスの5と初心者の服と靴の効果で元々10だった防御が265まで跳ね上がった。


 これで当面怖いものは無い。

 俺が意気揚々と経験値が手に入るモンスターがいる狩場へと進んだ。


 ☆


「だいぶレベルが上がったな。しかし……やっぱり消費より売値が大きいモンスターはそうそういないか……」


 新しい狩場で狩ったおかげで10まで上がった。

 前に見たジェシーのレベルと一緒だ。


 しかし、100万ジル近くあった俺の所持金は、ドロップアイテムを売っても徐々に減っていってしまった。

 ロックビートルほど美味いモンスターなんて居れば誰もが狩り始め、結局供給が需要を上回り価格が下がってしまう。


 ちなみにロックビートルが乱獲されていなかったのは訳があった。

 このゲームは同じモンスターを一定数倒すとステータスが見れるようになる。


 その答えがこいつの特殊能力にあった。


【ロックビートル】

岩のように硬い甲羅を持つ虫。

HP:5、物攻:1、魔攻:1、物防:255、魔防:255、属性:虫

特殊能力:攻撃した武器の耐久度消耗大。


 俺は壊れない武器「初心者のそろばん」で殴っていたから気付かなかったが、ロックビートルは殴る度に武器の耐久度が大きく減るらしい。

 初心者ではダメージが通らないし、ある程度のレベルになって簡単に倒せるようになったら、武器が消耗してしまう。


 価格はそれなりだが需要が大きくないアイテムのためにわざわざ倒すプレイヤー居なかったということだ。


「ん? まてよ……そうだ。こうすればいいんだ」


 俺は急いで街に戻り、露店が集まるエリアに進んだ。

 所狭しと並んだ露店でお目当てのものを探す。


「あった。よし。これを全部売ってよ」

「え? ああ。ありがと!」


 売主のプレイヤーに金を渡し、目的のアイテムを買い占める。

 俺は露店の相場を確認する。


「おー。結構上がったな。これが取引数が少なくて助かったな」


 たった今買ったのは今居る狩場の虫属性モンスター、ワームフライヤーというトンボ型のモンスターのドロップアイテムだ。

 俺が買ったのはその中でもで売っていたプレイヤーからだ。


 ワームフライヤーのHPは50。防御はそこまで高くないと思うが、素早い動きで攻撃を当てにくいのか、狩場では不人気だった。

 さっきまでの相場は300ジル。倒すのに420ジル必要だから店売りでは差し引き240ジルの損だ。


 今俺は1000ジルで売っていたプレイヤーから売っているだけ買った。

 その後の相場はなんと500ジル。これで損は120ジルまで縮まった。


 その後もネタのつもりか相場を知らないのか、かなり強気な値段で出している露店のアイテムを金の大半を使って買い続けた。

 その結果、ワームフライヤーの相場は1500ジルまで上がった。


「よーし。これで準備は出来た。あとは狩りまくるだけだな!」

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