遊園地 12
命令通りにダンサーと放浪者は囲んだ輪を縮め、そしてパレードのカーに誘導しようとする。全員が同じ笑顔だから追い詰められた精神がさらに圧迫される。
「なんなのよ!夢なら覚めてよ!帰してよ!」
笑顔と拍手に囲まれ、迫る人の壁にタカコは冷静さを失っていた。
狂気から脱出しようと人の壁の隙間から逃げようとしてもキャストはタカコの腕を絡ませて動きを封じる。「嫌だ」「帰して」と叫んでもあたしたちを祝う拍手はそれを聞き入れない。
そんな彼女にミツハはもう一度落ち着かせようと試みる。穏やかにタカコの両肩を掴んで聞かせる。
「帰る必要なんてないよ。ずっと高校生でいられるのよ?こんな幸せある?」
それは他人の慰める言葉ではなく、傲慢な幸福の押しつけだった。キャストと同じ笑顔でミツハは語る。
「言ってたじゃない。高校時代が1番楽しかったって。楽しい思い出がまた現実になるんだよ」
「あんたと一緒にするな!」
ミツハの押しつけをタカコは拒絶する。
「私にはキャリアもあって!婚約もしてるのよ!鬱で会社辞めたミツハとは違う!」
混乱から生まれた暴言はミツハを傷つけた。
「なんで?なんでよ!彼氏の愚痴ばかり言ってたじゃん!仕事も休みたいって!高校が1番楽しかったって!裏切らないで!タカコだけは私を裏切らないで!」
必死になって縋るミツハにもタカコは首を振って拒絶を繰り返す。
そうしている間にも拍手喝采の輪は迫り、あたしたちは華やかなパレードへと追い込む。
「なぁ、瑠璃」
光弥が余裕のない様子であたしの袖を引っ張る。白鋏で逃げようと、その言動は示していた。
じりじりと迫る狂人たちにハクは牙を剥き出して今にも襲って行きそう。あたしはハクの背中を撫でて爆発しそうな恐怖心を宥める。
「逃げ場はないわよ」
キャストがひと声あげただけでマネキンと向き合うばかりの放浪者がこちらを注視して、号令すれば一斉に動く。
あたしたちが辿り着いた夢園という楽園は監視ばかりの世界だ。洗脳が解けた者から捕縛されて、逃げられたとしても数百の目が見張っている。端末のSNSも監視システムのひとつ。
「目覚められないのか?せめて、彼女だけでも」
悪夢から覚める案を提示する。
「生憎、夢の中で他人を起こすやり方を習得してないの」
白鋏・白糸があるからといってなんでもできると勘違いしないでほしいわね。
狂った笑顔と拍手に追い詰められてあたしたちは華やかなカーに乗せられる。
ポップなデザインで構築されたその中はポップとは言い難い。もちろん、そこに閉じ込められたあたしもポップな気分にはなれない。
屋根は外の光を遮り、檻の中は影が作られる。明るい色彩のパレードなのに、ここだけが遊園地の裏側を表現したかのように暗い。
そして、天井には無機質な生物のように、細く長いパイプが一面に張って蠢いている。機械化した無数のミミズみたいで気持ち悪い。
檻の暗闇に押し込まれると抵抗する間もなく、機械ミミズが天井から離れ、触手の動きで腕、脚に絡まる。けれど、機械ミミズはあたしとタカコには触れようとしなかった。機械ミミズが束縛したのはカンダタ、光弥、ミツハだった。
「Let's enjoy!」
マイクを持ったキャストの号令。それを合図にパレードは進み出す。楽しくて愉快な音楽が流れ出す。
音楽に合わせてダンサーが踊り狂って、塔のオブジェから姫が手を振る。シャボン玉と紙吹雪を散らしてキャッスルタウンの大通りを旋回する。
パレードの歌と音楽に魅かれた人々がペンライトを振るう。同じ笑顔を張り付けて同じタイミングでペンライトを振る。
「否定しないで私を否定しないで」
現実からも夢からも、打ちのめされたミツハは今もタカコに縋ろうとする。
そんな彼女の悲哀を聞いた機械ミミズは先端から注射針を生やし、尖った先から謎の液体が垂れる。
「いやあ」
はたから眺めていたタカコは甲高い声を上げて今すぐにでも檻から脱出しようとカラフルな鉄格子に触れる。瞬間、カラフルな鉄格子から可愛くない電撃が放たれた。
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