時計草 6

「で、カンダタの推理はいつ聞けるのかしら?」

食べ終えるまで待ってくれた瑠璃は先程の話の続きを挑発するように聞いてくる。

挑発されるほど大した推理でもない。カンダタが気になったのは佐矢 蛍が3月に亡くなっているという点だ。人の魂が大体2ヶ月で溶け、消えるのなら佐矢 蛍の魂は存在していないのではないかという疑問。

これらを説明した上でカンダタは憶測とも言える確証のない推理を話す。

「あたしたちはそれを聞いていないからなんとも言えないわね」

ひと通りのことを話すと瑠璃は異論を述べる。

「それにどうやっても無理じゃない。そいつは今、ベッドの上で寝ているのよ」

「それなら考えるまでもない」

瑠璃の言い分は常識的に考えれば正しいが、それは問題にはならない。

「この間まで瑠璃がその状態だった」

瑠璃にとって欠片すら見つけられなかった事実だ。足元に転がる石に似ており、指摘されなければ気付けないものだ。その石がすべてを納得させた。

「ああ、もう」

カンダタの推理が正しいと言わざるを得ず、悔しそうに声を唸らせる。

そして、夜が学校に侵食し、始まりの鐘が鳴る。




「体育館で待っている 長野より」それがカウンセリングの教室に置いてあったメモだった。

雨の風景から夜の風景へと変わろうとしていた。

「帰るなら今だ」

重い足取りで着いた体育館。空洞の館内にケイの忠告が響く。

「私が足手まといになるのはわかってる。でも、すみれ先輩を放ってはおけないから」

私が再び虐殺の舞台に立ったのはすみれ先輩に会って、ちゃんと話をしたかった。

こっそりと家を出た時は覚悟を決めてきたのに、早くも揺らぎだしてしまったのは瑠璃から聞いたあの話。

「それも聞けばいい」

ケイはそう言うけど、それを考えただけでもなぜか手が震えてしまう。

すみれ先輩は私の痛みを理解してくれた。正しいと言ってくれた。勇気をくれた。優しくしてくれた。それなのに、その人が山崎たちと同じように、人を傷つけていたなんて。考えられなかった。

「すみれ先輩と話したい。わかってあげたいって、憎む心は間違ってない、正しいです、でもこれはは間違いです、もうやめましょう。そう言おうと思っていたの。なのに、その心ですら正しくなかったら、私、すみれ先輩を助けてあげられない」

「キヨネはその為にきたんだろう」

「そうだけど、無理だよ。だって傷つくのを見て笑うような人なのよ」

「軽蔑したか」

「そういうわけじゃ、ないけど」

ケイの直接的な物言いを否定したかったのに、その為の言葉が思い浮かばない。私の根幹にある背けたい本質を言い当ててしまったから。

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