蜘蛛の脚 13

すみれのいかれた目がこちらを捉え片腕から生える蔦があたしを狙ってくる。

咄嗟に差し出した左腕で自身の首を守った。直後、すみれの歯はあたしの左腕に噛み付く。骨の奥まで痛みが伝わってくる。

蔦の腕はあたしの肩を地面に抑えつけて左腕を貪りように噛んでは放し、噛んでは放しを繰り返す。

「殺したらいけないよ。魂を抽出する必要があるからね」

蝶男があたしの横に立ちすみれに伝える。傍観を決めて、余裕たっぷりに喋り出す。

「頑張ったほうですよ。喚くだけの演劇部員と違ってあなたは冷静に物事を判断できた。白鋏をうまく活用して」

そこでが止まり、呆然とあたしを見つめる。

「今更気付いたの?馬鹿ね」

痛みに耐えながらあたしは笑う。

鬼ごっこで負けるはずがない。なぜなら、白鋏があるから。行きたい場所へ好きなように、一瞬で移動できる能力は窮地に陥りにくい。

校庭でそれを使っていないのは単純な話。あたしは白鋏を持っていない。

あたしと光弥だけでは蝶男を出し抜いてカンダタを連れ出せない。だからといってケイと清音と共にエネルギー供給を止めに行ったとしても彼らはあたしたちの位置を把握できる。蝶男の気を逸らし、尚且つカンダタ連れ出す策を図書室で話し合った。

あたしと光弥は囮で、その役割も今終わった。

エネルギー供給を破壊したケイが白鋏を使って校庭の地に立つ。

「白鋏を!」

あたしが叫ぶとケイは白鋏を投げ、同時にもう片手で刀を振るう。蝶男の背中を斬ろうとした。

あたしの目線が背後のケイに向けられていると蝶男は瞬時に判断した。振り返れば、白い刃が降ろされて蝶男に触れる寸前だった。

そうして蝶男の空いた隙を見逃すまいとあたしは受け取った白鋏で指に巻かれていた黒い糸を切る。

蝶男は防衛の為に腕をかざだし、同時に黒蝶となって四散する。しかし、かざした腕が間に合わなかった。

黒蝶が霧散していく群の中、彼の片腕があたしのそばに落ちた。カンダタと蝶男を結んでいた黒い糸ははらりと落ちながら塵と化していく。

ケイは黒蝶の群れを追いかけなかった。優先したのは目の前で襲われているあたしで純白な刃が邪気を払う。

横断した切っ先がすみれの両眼を裂いた。あたしの腕を放し、身を引く代わりに口から取りだしたのは熱と痛みを訴える必要な叫び。

「ああああ!いだああい!さああづかああああ」

自身に受けた傷を全てあたしのせいにしてすみれは叫んだ。

迷惑ね。あの腕と両眼はあたしのせいじゃないのに。

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