糸 11
ケイは「別世界」と言っていた。規模は違うけれど、ここは地獄と同じ作り方なんだわ。
地獄では魂のカスから世界を作っていた。別世界の学校では人の魂をそのもので作っている。緑の管で繋がれた男性は復讐劇の舞台材料になったのね。
「助けられないの?」
「もう死んでいるのよ。4日前にね」
「でも、こんな、酷い」
「別に反論してもいいけれど、事実は変わらないし、あたしを責めるのは筋違いよ」
清音は俯いて唇を噛み締める。
「だが、終わらせられる」
それは弁解や励ましとかではなく、ケイの一言もまた事実だった。
「そうね。つまらない茶番劇を台無しにできるわね」
白鋏が緑の管を1本切る。また次の1本を切る。
単純な話で、この人が世界の燃料にされているのならそれをなくせばいいだけ。
学校の機械室は3部屋ある。まずあたしたちがいる北棟地下、西棟地下、部活動の地下。怪事件の被害者は6人。ここには2つの果実がある。
「あと4人分の燃料が他のところにあるはずね」
ケイもあたしと同じ考え方をしていて詳しい説明をしなくても理解し、頷く。しかし、彼の言葉には引っかかりがあった。
「この規模なら5人で間に合う」
5人?あと1人は予備?
殺人だけでも相当なリスクになる。警察だって無能なわけじゃないし、全国的なニュースにもなってる。何度も繰り返せるわけじゃない。それを予備の為に危険を犯す?計画そのものが駄目になってしまうかもしれないのに?
単純に考えるべき?それとも。
「ギャア!ギャア!」
あたしの思考を遮ったのはハクの怒鳴り声で振り向けばをドアに向かって吠えていた。
ハクの危険信号ね。ここにいることがばれたのかしら。
そういえば、放送でのすみれは生き残った人数を数えていた。
そのことを不意に思い出して、あたしが失点していたことに気付く。
彼女が人数を把握できているっていう事はあたしたちがいる立ち位置まで把握できるってことじゃない。
無気質な鉄の扉を誰かが叩く。ノックとかそういう礼儀正しいものではなく、敵意を込めた強い響き。叩かれるたびにドアが揺れる。
この機械室では逃げ道は無い。白鋏で瞬間移動しようにもあてがない。廊下は危険で3-Aはなおさら無理。
叩く音が2つに増えて3つになる。鉄のドアは歪み、凹凸の山脈を作り出す。人間もどきの数が増えていくのが想像できる。
「もしかして、あの黒い怪物?」
清音がケイを抱きかかえて言う。
「それか人間もどきよ」
歪んできたドアのわずかな隙間から白い手がいくつも伸びては宙を握り、壁を掴み、あたしたちを求める。
「迎え撃つから放せ」
唯一戦えるのはケイだけになる。
それすらもわからない清音は肩を震わせて涙を流し、さらに強くケイを抱きしめる。
ケイは迎え撃つと言っていたけれどあの数では到底敵わない。
1枚の砦はすぐにも壊れてしまいそうだ。
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