糸 10
錯乱して暴れる清音を落ち着かせる為、さっきよりも力強いビンタを同じ頰に叩くと頭部を壁に叩きつける。
「まだ混乱するっていうんなら反対の頬もビンタするわよ」
頭部の激痛を堪えるように清音は手を頭に抑えてあたしとケイを認識する。
「やり過ぎだ」
「ギャア!」
ケイからもハクからも責める声が交わる。
「何よ、あなたたちにできないことを代わりにやったのよ」
「もう、叫んだりしないから放して」
清音がそう言ってきたので黙って手を離す。
「腕、引っ掻いてごめん」
放した腕に細い爪の痕がある。清音はそれを見て申し訳なく思ったみたい。
「謝らなくていい」
ケイはまだ怒っていて瞳のない仮面であたしを睨んでいた。
「あの、なんでケイとささ、瑠璃が?」
あたしとケイを交互に見て疑問を投げる。苗字で呼ぼうとしたのは今は伏せてあげましょうか。
「あたしがここにいるのもあなたがここにいるのも些細なことよ。それよりも桜尾 すみれよ。
彼女について聞きたいの」
「え、えっと、そうだね。うん。話すよ」
冷静を取り戻した清音は落ち着いた口調で自身に起きた事象を語る。
わかったのはすみれの目的が復讐であること、校庭の中心にいる怪物の正体がカンダタであること。それらを清音から聞いた。代わりにあたしは清音に白糸・白鋏のこと、蝶男の狙いがそれであることを話す。
「あの、瑠璃とカンダタさんが一緒にいたの?」
地獄についてでは省略した。だって今は関係ないもの。
「それ聞く必要ある?」
「ない、けど」
「そう。なら無駄話は無しにしましょ」
あたしは謎の果実と向かい合う。清音も立ち上がって後を追うも足元に広がる果実の種に顔を歪ませる。
「なんで平気でいられるの?蛙の卵なのに」
平静を装っていたからそんな関心が清音に浮いた。清音は本気でこれを蛙の卵だと勘違いしているみたいね。
「これはパッションフルーツの種よ。食感が良いのよね」
「食べたの?」
「市販されてるものよ。落ちたものは食べないわ。5月から8月位が旬よ」
最後の言葉を聞き流して清音は隣に立つ。
「これもパッションフルーツ?」
脈打つ果実は食べ物とは言い難いわね。
「人の入った果実は食べたくないわね」
「やっぱり、この影って人なの?」
「開ければわかる」
白鋏を握ったあたしは薄皮に切れ込みを入れる。背後から制止する清音の声が聞こえたけれど無視して切り裂く。
細い線の切れ込みでもそれが引き金となって中に詰まっていた種や謎の液体が流れだす。中に残ったのは丸まった人間だけだった。
中を覗いてみると成人男性の頭、背中、腕に緑の管が繋がれていた。
「死んでいるの?」
「でしょうね」
言わなくてもわかる事実ね。
「この人、誰?」
「ニュースで見た顔ね。怪事件の被害者よ。遺体で発見されたうちの1人」
機械室の外で襲ってきたのはレプリカでオリジナルはこの中ってわけね。
「遺体から抜かれた魂だ」
ケイが言って、あたしは納得する。
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