鬼ごっこ 16
「結論は出たようだね」
すみれ先輩は頷く。
「清音、私はあなたを傷つけたくない。この舞台にも無事にいてほしい。だから」
長野先生の隣に居座っていた鬼が私に近づいて来る。
「擦り傷一つ、つけないで」
鬼はそれをわかっているのか、険しく光る瞳では感情は読みとない。
逃げるように後退りするも黒い腕は軽々と私を持ち上げる。
「すみれ先輩!もうやめて下さい!」
「ごめんね。もう引き返せないの」
すみれ先輩は背を向けてカンダタさんと長野先生に向き直る。
「うん、やっぱりまずいな」
「難しいですか?」
長野先生が呟いてすみれ先輩が質問する。
「彼と僕の関係はリモコンとマシンみたいなものだ。操作するための電波が行き交うんだけど、昔その電波を壊されてね。この前、久しぶりに操作したんだがすぐに切れてしまった。今は意識がないから動きもしない」
「それって危ないですよね。彼自身、黒蝶の制御ができないから感情の起伏で暴れたりとかして」
「うぅん。そうか、なるほど。いいアイディアだ」
何か閃いた長野先生は工具箱から細長い鉄棒2本、手に取るとこめかみの穴に入れて、くるくるとかき混ぜる。
「今のがいいアイディアですか?」
「フラッシュバックを起こす。死に際のあたりがいいかな。その時の記憶が蘇るえれば感情も蘇る。そうすれば彼も目覚めてあれが出てくる」
「 カンダタさんどうするつもりですか?」
2人を見ていると恐怖が広がる。
「言ったでしょう。心配されるような人じゃないし、そもそも人じゃない。大丈夫。あれを見れば考えも変わる」
「何を」
声が途切れた。反論する言葉が浮かんでいたわけではなかったけれど理由はそこではない。離れても耳を劈く叫びがカンダタさんから聞こえたから。
痛みで上げる声は雄叫びや咆哮に似ていた。そして、彼の背中から空を望むように伸びたしそれに私は絶句する。
鉄柱のように太く、先端が細い。高く伸びたそれは途中で折れ曲がり地面に刺さる。まるで虫の足のようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます