鬼ごっこ 15
背中が骨だけになると電動ノコギリが音を鳴らして真ん中あたりの脊椎を切り取る。
「ねぇ、私と一緒に行かない?こうやって苦しませた人たちに罰を与えるの。確かに正しいとは言えない。犯罪だわ。でもそうしないと人は気づかない。人は罰を受けてやっと罪を知るのよ」
切り取った脊椎を掲げて観察する長野先生。カンダタさんの脊椎にはまだ血が残っていて先生の指に流れて滴る。
「わた、わ、私は」
すみれ先輩は本気だ。彼女は彼女なりの信念を貫くこうとしている。私とは違う。強くて、屈強な意思。潰されそうになる。
「やはり、質が悪いね。繁殖力が弱い」
長野先生が呟きながら私に脊椎を差し出す。
「君が桜尾さんの勧誘を受けるならこれを服用することになる」
そこから湧き出すもの言葉が失う。脊椎の中心にある脊髄。その神経から湧くのは黒い無数の芋虫だった。脊髄を囲む白い骨には黒くて丸い虫の卵。人から取り出された寄生虫だらけの骨。
「見た目はあれだけど、スナック菓子と思えばいい」
服用、菓子。なにこれ。 私は、何を求められている?楕円の骨はどこからきたの?カンダタさんの背中から?この卵は何?黒い芋虫は、 何?これは?
「これが能力になる。あいつら仕返しできる」
すみれ先輩が興奮気味に力強く言う。
もう、わからない。カンダタさんは死んだ人で、死者の骨から虫が湧いて、2人はそれを食えと言ってくる。なんで?なんで?
「山崎さんは死んだ時、当然の報いだって思ったでしょ?」
「それは」
すみれ先輩は虫と卵で寄生された骨を長野先生から取ると私に差し向ける。
「死んで当たり前だって」
興奮して口調が強くなるすみれ先輩、私は何も言えずに言葉を詰まらせる。
「わた、しは」
「他にもたくさんいるのよ!山崎みたいに死んで当然の人が!」
「私は」
「これがあれば!」
「 私はっ!」
詰まらせた感情がそのまま口に出る。それは言葉にできない激情と葛藤の感情だった。私は冷静になって深呼吸をする。
「聞いたんです。山崎の家庭のこと」
それは山崎の訃報を知った後の噂。彼女は学費を自ら稼ぎ、そして血の繋がった父親に。
「彼女が私にしたことを、許せないです。でも、彼女も私を許さない」
毎日母の手作り弁当食べた時、どんな思いをしていたのだろうか。大型連休で家族旅行の話をした時、どんな顔していたか。
私はそれを自慢話にしたくなくて、謙虚に「当たり前」と言った。山崎が欲しがっていたもの。山崎の日常を照らす非日常の夢。私はそれを誰もが持っているものと勘違いしていた。だって、彼女の日常は私にとっては非日常だったから。
私も彼女を傷つけていた。
「仕返しとか、できる立場じゃないんです。私は」
すみれ先輩と比べて弱々しく、選んだ言葉も感情の全てを表現してくれなかった。それでもすみれ先輩が微笑みを戻す。
「うん。無理強いはしない。するものでもない。清音はそのままの清音でいてね」
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