黒猫の探し物 19
突然、流れた放送に教室にいた生徒と教師たちはを廊下に出る。
「私はすずちゃんと将来の夢について」
「放送室はどこだ?」
ケイは張り詰めた声で私に問いかけた。手掛かりがそこにあるという確信を持った問いだった。
「え、えっと」
恐怖によって思考が止まっていた私の頭はうまく言葉で表せなれなかった。
「案内してくれ」
「うん」
私はケイの言う通りにして放送室へと走った。放送室は反対の棟にあるから到着するにもそれなりに時間を要する。
その間にも放送は続いていた。内容からして、女子生徒が部活でいじめられていたことを独白しているようだった。前半は自分の体験を淡々と語っていたけれど、その内容は段々と長年溜め続けていた恨み辛みといった負の感情を吐き出すだけになる。
「そして、私は羞恥心と屈辱が歪む感触を知った。私は、私が思っていたよりも弱い人だった。強くはなれなかった。人は叩くと強くなると誰が言ったの?涙の数だけ強くなると誰が言ったの?人は人が思っているよりも脆い」
私は渡り廊下を走りながらスピーカーの悲痛な声を聞く。
「人は叩いて強くはなれない。人は叩かれると歪むんだ。私はたくさんの人に叩かれた。純粋さは憎しみになって、純真に追いかけた夢は姿形を変えた。私の心は凸凹で濁した光を反射する。そして、1つの感情が生まれる。お前ら全員死ねばいい」
その一言には彼女の殺意が詰まっていた。
「私は役立たずじゃない!私を愚図にしたのはお前だ!親もすずちゃんもクラスメイトも!先輩たちも!全員死んじまえ!」
前半は彼女のSOSだった。劣悪な環境から抜け出したくて足掻く独白だった。しかし、今流れているそれは自ら救いの手を振り払って地獄の底から呪いの言霊を吐く罪人のようだった。
「あはははは!こうなってもまだお前らは私を責めるんでしょう!私が悪いんだって責めるんでしょ!いいわ!悪人なってあげる!」
放送室に着くとすでに先生たちがドアの前に集まっていた。ドアには心張り棒か何かしてあるみたいで鍵を開けても中に入れなかった。
「忘れないでね!私が真っ先にお前らを呪う!地獄に道連れにしてやる!死んでも苦しめ!あはははははははははははははは!」
放送の生徒は狂ってしまって学校全体に狂人の笑い声が響き渡る。
先生たちがドアを叩き、中にいる生徒に怒鳴っても笑い声で掻き消される。
先生たちは説得しても無駄だろうと悟ったみたいで、数人の男性がドアにタックルをし始める。1度ではドアを外れない。2度、3度と間髪入れずにタックルを繰り返す。4度目で固く閉ざされていたドアは外れ、女子生徒の笑い声も止まる。
「きゃああああ!」
静寂が戻った校内に女性教師の悲鳴が響く。
私はゆっくりと歩き、ケイも後ろからついて行く。
室内にぶら下がっていたのは首を吊った男子生徒だった。
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