とある生徒と蝶男 その一
「全員、死ねばいいんだ」
ひと通りのことを話終えて、紅茶をすする。ほのかに甘く温かい紅茶は興奮した心臓を落ち着かせた。
冷静でいることを努めたが後半は恨み辛みが詰まった呪いの言葉だけとなっていた。
それでも、長野先生は黙って呪われた言葉を聞いてくれた。あの話が本当ならこの殺意や恨みを救ってくれるのだろうか。
「君の思いは伝わったよ。今まで辛かったんだね」
ゆっくりと口を開いた長野先生はカウンセリング特有の優しげな声で言う。
「先生の真似事はやめてください。カウンセリングなんて嘘なんでしょう?」
「そうだよ。だが、君の魂を救える。正攻法ではないがね」
ただのカウンセラーじゃない。むしろ、人間ではないと確信していた。彼を例えるとするならば悪魔だろう。
己の欲を満たす為に魂を引き換えに商売する地獄の住人。
「長野先生が悪魔でも構いませんよ。この望みが叶うなら魂は安いものですよ」
願うのは愚者が求めるような一時的な欲望ではない。積もりに積もった憎しみと恨み、そして殺意の浄化。他人はこれを復讐と呼ぶ。
「魂をくれるなら僕はどこまでも協力しよう。君の意思も尊重しよう」
「もし、先生を裏切ったら?」
「君の意思がなくなる。この説明は長くなるから後にしておくけど、人ではなくなる。これだけ言っておくよ」
うまい話はどこにもない。悪魔に魂を売った者の結末は決まっている。
それでも構わない。この時を迎えた時点で覚悟は決まっていた。
「揺るがないようだね。なら、早く紅茶を飲み干すといい。それから君に黒蝶を分けてあげるよう。あと黒い化け物もね」
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