黒猫の探し物 14
私が吐いた理由について、お母さんには風邪気味だと説明した。安斉先生の遺体を見てしまったことを話そうかと迷ったけれど黒い化け物も人間に姿を変えた猫も、私が説明したって理解はされない。見て触れた私でさえ信じられないのだから。
シャワーから上がった私は顔色が悪いまま、自室へと戻る。
すっかりピンクのクッションを気に入ったケイはその上で丸くなっていて、私が来るのを待っていた。
ケイは起き上がって私の前へと寄ってくる。
「顔色が悪い」
そう言われてもその原因を作っているのはケイ本人だと気付いていないみたい。
「当たり前じゃない。あんなものを見た後なのよ」
「帰れと言った。危なかった」
確かにケイは警告をしていた。私も深く考えずに夜の外へと飛び出してしまったのも悪い。でも、こんな展開、誰が予想できるの?
「何が起こっているの?黒い化け物は何?なんで安斉先生が死んでいたの?あなたは何者なの?」
半分パニックになっていた。頭に浮かんだ疑問はまだまだあったけど、それらを塞ぎ止めたのは残り半分な理性だった。
「俺はケイ。黒いのは鬼。それ以外は知らない」
「知らないって。じゃあ、何なら知っているのよ」
「何を知りたい?」
「全部よ。さっき起こったこと全て」
声は荒げないように努めた。猫に対して怒鳴ってしまったらお母さんたちの心配事が増えてしまう。
私は頭を抱えて部屋中を歩き回る。
冷静になって、質問を考えるのよ。
「ケイは猫なの?」
「猫でもあり人でもある」
私は黙って話を聞こうとしたけど、ケイはそれ以上のことは言わずに、猫はじっと私を見つめ返す。
「よく、わからないんだけど、つまり、どういうこと?」
「型が2つある。カゲヒサがそう作った。長い年月を旅できるように」
「型?」
「型は型だ」
あぁ、どうしよう。全くわからない。説明をしてもらう相手を間違っているのにこの猫以外、私がほしい説明を持っている者がいない。
深く息を吸って頭をリセットする。もう一度、整理してケイに向き合う。
「鬼って言ったよね。ケイはあれを退治しに来たの?」
「それは俺の存在理由ではない」
次の質問を考えながら口を開くもケイは続けて言葉を繋ぐ。
「だが、手掛かりだ」
「そういえば言っていたね。糸とかハサミとか。それを探しているの?」
「鬼はあちら側の生物だ。現世に存在しない。なのにいる。糸と鋏は怪異の中心にいる」
「糸とハサミがその、鬼みたいな怪物を呼んでるってこと?」
「もしくは蝶だ」
蝶?虫?どうしよう。わからない単語が増えたわ。
「蝶も探している。そして、キヨネにも蝶の臭いがする」
「私が?」
「朝のキヨネにはなかった。戻ってきたら臭う。糸と鋏の臭いも混じっている。キヨネはどこかで接触している」
「そんなこと言われても」
そもそも、ケイが探しているアイテムがどんな形をしているのかも知らない。言葉通りそれは糸なのかハサミなのか。そうだとしても梅雨の時期に蝶は飛ばないし、裁縫箱には触れていない。
「キヨネが知らなくて当然だ。糸も鋏も覚醒していない可能性がある」
ケイの口調に一つの違和感があった。まるで糸と鋏は人であるかのように話している。
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