黒猫の探し物 15

「明日は俺も学校に行く」

私の違和感はその一言で消し飛ぶ。喋る猫を学校に連れて行くなんて前代未聞だ。

「駄目よ。連れて行けない。猫は持ち込み禁止なのよ。しかも喋る猫は」

「連れて行けとは言っていない。俺が行く」

つまり、勝手にいくということだ。

「困るわ。だって」

「50年だ」

何とか説得しようとそれもケイがある年数を言った。

「ずっと探した。唯一の手掛かりだ」

「50年、生きてきたの?」

その年月探し続けていた事実よりも50年生きてきた猫に驚いていた。ケイは喋る猫でもあり、人に化けれて、しかも長生きだった。

「俺は塊人だ。生死は存在しない」

ケイの言葉はロボットみたいで感情が見つからない。なのに淡々とした口調の奥には50年分の積み重なった執念が覗かせていた。

たったの15年しか生きていない私では50年に敵わない。いくら止めても勝手についてくるだろうな。

私は諦めた溜め息を一つ吐いた。

昨夜の出来事でも充分に驚き、恐ろしい体験をしたわけだけど、お父さんからの話もまた私の背筋を凍らせた。

「安斉先生が遺体で見つかったらしいな。実力のある人だが、問題もあった先生だったな。いじめを放任していたとかで」

昨夜の遺体を思い出さないように私はテーブルに座って用意されたヨーグルトを食べ始める。

「その、いじめっていつからあったの?」

なんとか話題を変えたくてなるべく、関係ない質問をする。

「昔からだ。指導だとか言っていたが度が過ぎたな。ついには死人が出てしまった」

そういえばあの先輩も部活のいじめが原因でカウンセリングを受けていた。3年生になってから休部したみたいだから2年生の3月までいじめを受け続けたのかな。

学校へ行こうとする私を心配性のお母さんが引き止める。昨日に続いて流れた不穏なニュースとシャワーで吐いてしまったことがお母さんを余計に心配された。

私はなんとかお母さんを説得して玄関のドアを開ける。

因みにケイは自室に置いたままにしている。窓は開けてきたのでキャットフードを食べ終えたら学校に向かうのだろう。私には迷惑をかけないと言っていたけど不安は拭えない。

昨夜のうちに多くを質問したから大体のことは掴めた。

死んで魂だけになった者は液状になってハザマへと流れるらしい。そして、塊人が地獄か輪廻か分けているらしい。

現世では魂や塊人といったあちら側のものは見えない。私の場合は何かしらのきっかけで見えるようになってしまった。

昨夜の出来事があったからと言ってその全てを信じているわけじゃない。

その事実を知ったとしても黒い化け物、鬼がなんで現世にいて人を襲うのか。それの答えにはならない。

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