魂のプログラム 22
高さ・幅が2mの本棚は部屋の両端に3台ずつ、デスクワークに向かって整列している。
本棚の陰に隠れると背を縮めて奥を伺う。カンダタは膝下から足先までしか見えない。
光弥はデスクワークの前に座ってぶつくさ呟いてキーボードをたたく。ハードウェアが一台、デスクトップが2台、ノートパソコンが1台といった陣容でその隣には可愛らしい紺色の子狐のぬいぐるみがあった。
それでも机の上には多くのスペースが余っているはずなのに光弥の仕事机は食べかけのチップス袋と捨てずに溜まった空き缶で空白が埋まっていた。清潔感のあった白いデスクワークは遠くへ行ってしまったようね。
あたしはできるだけ厚い本を手に取って足音をたてないように光弥に近づく。彼はパソコンに夢中で侵入者が真後ろにいるあたしに気付いていない。
鈍感な光弥に本の角を向けて、後頭部へと降り下げた。
侵入者の奇襲に光弥は前のめりに倒れ込み、キーボードはかしゃりと音をたて、チップス袋と空き缶は机から転がる。
何事かと振り向く光弥の横顔に力一杯を詰め込んだ厚い本のビンタを食らわす。爽快な音が響いて力の流れのまま光弥は床へと落ちる。
合間を許さない2連撃。正直、ここまでうまくいくとは思わなかったわね。映画や海外ドラマみたいにすんなり殴られて寝てしまうなんて都合が良すぎる。
起きる様子はない。雑なあたしの策はうまくいったと考えていいのよね。
厚い本をデスクワークの上に置いて改めてカンダタと対峙する。
電池を抜かれたロボットみたい。糸が切れたマリオネットにも似ているわね。
そんな力が抜けたカンダタが背尽きの椅子に座っていた。人なら手足を縛って動きを封じるけれど、カンダタの場合は身体を縛るものはなく、腕も頭も脚も垂れ下がっていた。
女性のように吊るされていない。でも印象は同じ。死んだ魂そのもの。
頭には一本のプラグが刺さっていた。そのコードを辿ってみるとノートパソコンに繋がって、“インストール中”という文字が映る。
たった一本のプラグで魂を書き換えられるのだから、そりゃあ神様気分にもなれるわね。
刺してあったプラグを抜く。嫌な粘着質の音と共に細く弱い血が吹いた。まだ血が流れている。血を抜かれた人よりは動けるわね。
ポケットからハンカチを取り出して拭いた血を拭く。血の勢いはないけれど、流血はしている。穴を観察してみると脳まで続いているかと思うぐらいに深い。
自分にもこんな穴が空けられそうになったのだと実感して身の毛がよだつ。
ハンカチで流血を抑えながら白糸で傷を縫う。穴は頭蓋骨を抜けて脳まで続いている。皮膚だけ塞いでも意味はない。そもそも、死人を相手に治療だなんてこれ以上の皮肉は浮かばないわね。
傷も塞いで血も止まった。適当だけど起きてくれるかしら。
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