魂のプログラム 7

弥について行くうちに薄暗い廊下に来ていた。地上とは違って天井に電光はなく、廊下の下角に一定の間隔を空けて、細長い電球が足元を照らす。廊下の左側はガラス張りがあり、向こうの曲がり角まで張られている。

窓の向こうは深く巨大な竪抗になっていて下から灯される青白い光がそれを薄暗く照らす。

照らされていたのは歯車が幾重にも重なった一つの塔だった。

歯車の大きさはバラバラで一番小さくてもあたしの身長ぐらいの高さをして、大きいものでは2階建ての家ぐらいのものまであった。そんなものが縦に重なり、上下左右の歯を噛み合せながらゆっくりと回る。下部には塔を縛るように鎖が連なっている。竪抗の底から照らす青白い発光源はガラス張りからでは姿形も見えない。

「これが輪廻。私たちの聖地だ」

「これも管理しているの?」

「輪廻は自然そのものだ。私たちができるのは効率よく、廻すだけ。それよりも合間から出てくるものがあるだろう」

弥の言う通り、歯車の合間からはこの発光源を小さく砕いたような、泡にも似た小さな光の玉が竪抗の天辺へと上がっていく。

「あれが魂の残りカス。輪廻に送った魂は輪廻に洗われて記憶や思想を落とす。そのカスが地獄や私たちの材料になる」

「私たちって?」

「記憶のカスが固まると場所や物になる。思想のカスが固まると生物になる。わたしたちのようにね」

「あなたは人間じゃないの?」

「人の形をしていれば、それに似た構造になるが、私たちとは別の存在だ。魂のカスが集まってくると地面から生えてくる。それが私たちだ。だから、血筋というものがない。現世の魂は死んでハザマに流れるだけだが、私たちはある程度の摂理をコントロールできるし、過ちも犯さない」

 「光弥はあなたのことを父と呼んでいたわ」

 「あれは私が作ったんだ。私の左腕と他のカスからね。話が逸れた。瑠璃の白糸と白鋏もこのカスから作ったが他のものを混ぜたんだ。生命を入れた」

 「生命って魂?」

 「別ものだ。生命は身体が持つものだ。身体が生命を失って、魂が身体と離れるんだ。私たちは生きた人間の魂からそれらを作ったんだ。おいおい、そんな顔をしないでくれ」

 「あんたたちってカスの塊のくせして神様気取りよね」

 「神になった覚えはないな。仏だ閻魔だ、と勝手に呼んでいるのはそちらだろう。いいから話を進めるよ。生命は大きな推進剤になってね。それがいけなかった。2つの魂から作ったのも原因だろうな。白鋏と白糸が進化、成長を望んだ」

 「これが?意思があるの?」

 「白糸と白鋏は魂の一部。あるとすれば、それは君自身だ。最初は魂のカスぐらいしか切り取ったり、縫えなかったのに禁忌にまで踏み込むようになってしまった。現世でいうエスパーまがいのものができてしまうんだ。未来が視えたり、空間そのものを切ったりね」

 エスパー?傷を治したり、物をくっつけたり、切ったりはできたけど、ほかにも能力があるのかしら。弥は空間も切るって言っていたわね。それってつまり。

 あたしは思考を巡らせて弥の話を聞く。

 「さすがにまずかった。輪廻に流しても、白糸と白鋏を持ったまま転生してしまう。手放すのも危険だったんだ。だから、身体から魂を取り除いて、別々の場所で保管した」

 「2つが揃ってると駄目なの?」

 「互いに刺激を受け合って成長するんだ。別々に保管すれば意思も薄くなって思考も鈍る」

 白糸と白鋏。2つの魂。なら、あたしが2つ持っているのはなぜなのかしら。その疑問は弥が答えてくれた。

 「瑠璃が白糸と白鋏、どちらも持っているのは2つの魂が1つになって生まれたからだろう。もとは双子だったんだ。双子の魂が一つになるのは珍しくない」

 「あたしじゃない、もう一人の誰かがあたしの中にいるってこと?」

 「少し違うな。今は君の一部だ」

 「なら、その一部が、他人には見えない友人として現れたりする?」

 「なぜ、そんなことを?」

 あたしは一瞬、ハクを見た。今までの説明だと、これがあたしの片割れ、あたしの一部だとしたらあたしにしか見えず、あたしにしか触れなれないのも納得がいく。

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