邂逅するまで 7

 2人がそこから去ったと判断した光弥はスマホで子狐に戻るよう命令する。


 「光弥さん、こちらの確認終わりました」


 名前を呼ばれた青年は次の指示を出しながらタブレットに映し出された報告書を読む。


 「よりによって第4か。第2や7にしてくれれば楽だったのに」


 予期していなかった事態に光弥は思わず部下に愚痴を溢す。それに対して部下たちは愛想笑いでしか返せなかった。


 「親父も隠し事があるみたいだし」

 「隠し事とは?」


 つい、口が滑ってしまった。光弥の悪い癖だ。彼は口が軽かった。


 「忘れてくれ」


 タブレットを返して部下を下がらせる。光弥の発言をきにしてはいたが、その言葉通り光弥の発言を忘れて仕事に戻る。


 天鳥の地位というのは光弥より下にくる。光弥が指示を出せば天鳥はそれに逆らえない。しかし、彼女は父の忠実なしもべだ。だからこそ、報告の内容には疑惑があった。

 親父と何かしらの内緒話をするだろうと踏んだ光弥は子狐に尾行するよう指示を出していた。光弥の予見は当たって、親父は「教えるな」とはっきりと言っていた。その一つが“蝶男”だ。


 “蝶”思い浮かぶのは第4の地下にあるものだ。けど、あれは“曲輪蝶くるわちょう”という名称であり、女の誘惑と恨みで作られている。“蝶男”とは呼ばないだろう。


 「もしかして、俺が作られる前のことか?」


 ぽつりと呟いて自分なりに整理する。

 “現世” “地獄”それらを管理・観測する光弥たちが”総轄者”ここまでは常識だ。そこに非常事態が加わる。“糸と針” “生きたまま第4に落ちる”これらはイレギュラーで解決しなければならない問題だ。そして不明のワード“蝶男”


 これらのワードの中心に“蝶男”がいる。なのに、親父はそれを隠す。考えても欠けた事実は見つけられない。今は“生きたまま第4に落ちる”これを解決しなければならない。


 「こんな時に落ちるなよ。よりによって第4に」


 先程と同じように愚痴を言ってその後に付け加える。


 「あーあ、自分から昇ってこないかなぁ」






 重い瞼をゆっくりとあげてあたしは目を覚ました。

 そこは寂れた電車の中で車窓はどこも割れていて風は堂々と外から吹いてくる。砂と埃と荒廃した線路。見覚えがある。


 ここはどこでなぜ眠っていたのか。あたしはそれらの理解を置き去りにして歩くことにした。

 開きっぱなしのドアから降りて、役割を果たさない線路の上をなんとく歩きながら荒廃した世界を眺める。


 焼けた臭い、廃墟の街。暗い空には大きな光の穴。間違いなく地獄の地に立っている。


 線路を辿っていると駅のホームに着いた。駅名が表示されている看板は大半が割れていて読めない。

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