彼女の日常について 4

高校は市内を選んだ。特別、偏差値が高いわけではなく、不良が集まるわけでもない。普通の高校の普通科。夢を持たない人のための無難な選択。


 学校というものは苦手ね。部活と勉強、将来への希望。卒業したら捨てるものばかりを強要してそれに全力を注ぐよう仕向けられる。少しでもそこからはみ出ると普遍を求める人々によって整えられる。学校は人を機械化させる工場でしかない。

 ロボット工場の教室に入ると統一化された賑わいで息苦しくなる。不良品のあたしはどこにも属せず、どこにもなじまず、ただ独りでいた。


 「清音きよね!ノート貸してよ!」


 席の近くで、クラスでも目立つ女子たちが地味な子に集る。


 あたしより地味で抵抗のない大人しい子。あれはあたしの身代わりだ。

 一人でいるのもまた世間からはみ出た行為になる。そういう人は彼女たちの標的にされやすい。だから、あたしは自身の学生生活を守る為に清音というクラスメイトを見殺していた。

 彼女がいじめの犠牲になってくれたお陰であたしの学生生活は平穏になる。だからといって感謝も同情もしない。


 清音が3人の友人にノートを渡してチャイムが鳴る。あのノートは一時限目から使うものだ。それを要求してくる自称友人たちと抵抗しない子。

 これも毎日繰り返す雑音だらけの日常。


 時折、考えることがある。この世界は生きるほどの価値があるのかな、と。

 同じ時間に起きて同じところへ行き、同じ部屋に長時間閉じ込める。最も苛立つのはあたしがアホの生徒たちとバカな教師と同じ空気を吸っていること。無気力な教師は無駄な浪費を繰り返して生徒は知らない間に個性を殺される。


 これが社会の歯車を作るなら地獄で生きていた方がマシね。

 そう、あの世界。あの世界なら独りで静かに暮らせる。誰もいない完璧な静寂。あたしはそれを求めていた。




 数学の一限目は楽でいい。与えられた数式で与えられた問題を解くだけだから。

 自前に出された課題を求めた教師は清音を指定する。

 清音は立ち上って答えようとするも、その解を書いたノートは手元にない。結局、何も答えられず「忘れてきました」と耳を赤くして小さく言う。教室の片隅でクスクスと笑う声がした。


 くだらないな、と思いながらペンを回す。窓を打つ雨粒は勢いを止まらず、過度に水分を吸ったグラウンドは黒く湿っていた。教室に溜まっていく湿度に嫌気が差して、早くも梅雨明けを望む。


 数学、生物、現国、体育と続き、難関の古典。昼食をとってからの授業は眠くなりやすい。その上、退屈な古典だ。瞼が重くなるのは必然だった。

 そもそも、日本語を覚えているのだからわざわざ昔の言葉を覚える必要ないじゃない。何に役に立つのよ。


 そういうわけであたしはやってきた睡魔に従って夢へと落ちる。

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