二四 ハイエースワゴン 壱

「ちょっと、なによこのクルマッ? アンタ、求道会のオエライサンなんでしょ? ベンツとかロールスロイスとか、トヨタでもせめてクラウンくらい用意しなさいよ!」


 脚を組みシートにふんぞり返って言う真藤遙香に、弓削空は眉をひそめた。彼女は遙香を連れて求道会の本部へと向かっている。郡山から東京にとんぼ返りをした空は、法力のある信者と共にハイエースワゴンに乗り換えて遙香を追跡していた。海の千里眼により、遙香たちが二組に分かれた事も判っていたので、あえて動きやすい一台に信者と共に乗って来たのだ。まさかそんな事にまでケチを付けられるとは思わなかった。


「うるさい、お前は自分の立場を解っているのか?」


 空の言葉に遙香は鼻を鳴らした。


「その言葉、あんたにそっくり返すわ」


「何を……」


「あんたはあたしのよこつらを殴ったのよ」


 反論しようとした空の言葉を遮り、遙香は話を続ける。


「大人しく付いてきたのは、そのほうが早くダンナと社長を解放できると判断したから」


 何が大人しくだ、本来なら朱理も連れて行くはずだった。改めて遙香に験力ちからを見せつけられ、無理強いは求道会への悪影響が大きいと判断し、彼女一人で妥協したのだ。


「あんた、ホントに立場をわきまえてないわね。別に精神を操っても良かったのよ、こんな風にね」


 空の前に座っていた信者が座席を乗り越えて、彼女の首を締める。彼女は抵抗しようとしたが身体が全く動かない。


  や、やめろ!


 声も出せなくなっている。


「やめろと言われて素直にやめると思う?」


 冷笑しながら遙香が言った。


 この状況に他の信者は何もせず席に座り続け、ドライバーも運転を続けている。


「安心して、あんた以外は静かな車内が見えているから」


  そういうことか、すでにここいる全員の精神を操って……


 意識が遠のき、皮膚の表面に痺れたような感覚が広がる。闇に飲み込まれそうになった瞬間、首を絞める手が緩んだ。


 空は大きく喘ぐ、肺が欲していた酸素を大量に取り込む。


  いつの間に精神を支配した? 異能力を感知できないなんて……


「あんたはちゃんと感知できて、抵抗もしたわよ。精神防壁は一瞬で打ち砕いたけどね」


 遙香の言葉に思わず眼をる。


  記憶がない、まさか……


 マジシャンよろしく遙香が指を鳴らす。


 それを合図に空の頭に記憶が溢れ出した。

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