四 FIAT 500X 弐

 招待された理由は解らないが、ブレーブでは初めてだったので好恵はとても喜んだ。しかし、朱理は余り嬉しくなかった。それほど政治に詳しいわけではないが、ニュースを観ていると民自党は好きになれないし、芦屋首相は軽薄そのものでとても総理大臣に相応しいとは思えない。出来れば参加したくないが、社長だけではなく、チーフマネージャーの荒木早紀もめずらしく顔をほころばせていた。


 とても断れない、そう思っていると、遙香が朱理の気持ちを代弁するかの様に参加すべきでないと言い出した。理由を問われると、「嫌な予感しかしません」と答えた。


 そんな子供のワガママみたいな理由で不参加に出来ないはずなのに、好恵は永遠自身がどうしたいかどうかを尋ねた。


 そんたくしようか迷ったが、


「わたしは……あまり参加したくありません」


 やはり、自分の意見はハッキリ言ったほうがい良い。


「永遠ちゃんがイヤなら、仕方ないわね。早紀ちゃん、いい?」


「社長がいいなら反対する理由はありません。だいたい、私は民自がキライ・・・です」


 早紀は妙に「キライ」に力を込めた。民自党は「すべての女性が輝く日本」などとうたってはいるが、女性の地位向上に繋がる政策をそれほど行っておらず、大臣や各派閥の長などから女性蔑視の発言が繰り返されている。また、女性は結婚し子供を産むものという前世代的な考えを持っている党員や支持団体が多い。考えてみれば、独身主義者でキャイアウーマンの彼女が支持するわけがないのだ。


 好恵も早紀もあれほど喜んでいたのにアッサリ引き下がった。母が何かしたのではないかと疑いたくなったが、二人は仕事と個人的な感情を分けていたのだ。芸能事務所としては総理大臣主催の会に呼ばれれば箔が付くので喜んだが、個人的には好きな組織ではない。招待された本人が嫌なら、無理強いはしないというスタンスだ。


 永遠が参加を断った二ヶ月後、『紅葉を見る会』を総理が私物化していないかと国会で問題になり、マスコミも大々的に取り上げるようになった。母の予感は見事に的中したのだ。

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