【書籍発売中】世界一かわいい俺の幼馴染が、今日も可愛い
青季 ふゆ@『美少女とぶらり旅』1巻発売
第1話 世界一可愛い俺の幼馴染について
高校2年生の俺、米倉透(よねくら とおる)には、同い年の幼馴染がいる。
浅倉 凛(あさくら りん)は、成績優秀スポーツ万能、芸術にも長けた超ハイスペックな女の子。
そしてそれらの属性は、生まれ持った才能ではなくコツコツとした弛まぬ努力によって得たものだと、幼馴染の俺は知っている。
小学校の頃の凛は勉強やスポーツはもちろん、芸術の『げ』の気配も感じられなかった。
なのにある時から急に覚醒して、他の者を一切寄せ付けない圧倒的な努力によって大成する。
中学、高校と、その右肩上がりの成長を間近で見てきた俺としては尊敬の念を感じると同時に、遠い所にいってしまったなあとちょっとだけ寂しい気持ちである。
内向的でアニメやネット小説が趣味の俺と違って、凛はクラスの、いや、学年中の人気者になるに違いない。
きっと、俺なんかとは比べ物にならないくらい、きらきらと光り輝く人生を歩むだろう。
と、思っていたが、そうはならなかった。
「なに気の抜けたコーラみたいな顔してるんですか。こっちまでネガティブオーラが感染るんで今すぐやめてもらえますか?」
この幼馴染、少々口が悪い。
持ち前の毒舌で言い寄ってくる男はズバズバと斬り倒し、毅然とした態度を貫く。
そのせいで男友達は皆無で女友達も少ないようだが、本人はさして気にしていない様子だ。
「いや、すまん、ちょっとぼーっとしてた」
言うと、凛は大きな大きなため息をつく。
「透くんは夜更かしし過ぎです。ネット、禁止したらどうですか?」
「俺に死ねと?」
「まさかそんな。透くんには是非ともトラックに轢かれてもらって、異世界で幸せな人生を歩んで欲しいだけですよ」
「転生しろと死ねは同義だからね?」
俺がツッコミを入れると、凛はキリッとした目つきを僅かに和らげ、ほんの少しだけ口角をあげて見せた。
雰囲気に反してあどけない笑顔に、心臓がどくんと跳ねる。
黙って笑ってりゃモテモテだろうになあと、改めて思った。
凛は俺の主観関係なく、とんでもない美少女だ。
俺は心の底から、世界一可愛いと思っている。
え、それは主観?
いいや、世界一可愛い。
端正な顔立ちに、華のある目鼻立ち。
肌はミルクのように白く、胸部にはふたつの膨らみが存在感をアピールしている。
腰まで落とした長い黒髪はハーフアップヘアー、後ろは赤いリボンで括られていて可愛らしい。
身長は女の子の平均くらいだけどすらりとしており、まるでモデルのようなスタイルだ。
凛、という名に恥じぬ、大和撫子を彷彿とさせる美少女である。
うん、やっぱり世界一可愛い
日本刀とか弓とか持たせたらさぞかし似合うんだろうなーと、呑気なことを考えてるとすかさず尖った言葉が飛んできた。
「何じろじろ見てるんですか、気持ち悪いです」
「じろじろは見てないわ」
ちらちらは見てたかもしれないけど。
恥ずかしいから言わない。
「犯罪者は皆、口を揃えてそう言うんです」
「これで犯罪者にされてしまうんだったら、日本中の刑務所はどこもおしくらまんじゅう状態だろうな」
もう少し口調が柔らかくなるだけでも、たくさん友達ができるだろうにと、常々思う。
とはいえ俺は、そんな凛の毒舌を全くと言っていいほど不快には思っていなかった。
むしろ、お母さんが作った肉じゃがを食べている時のような安心感すら覚えている。
それは別に、俺が特殊な被虐趣味を持っているわけではなく……凛の毒舌にはちゃんとした理由があることを、幼馴染の俺が知っているからだ。
言うなれば凛の毒舌は、俺との間でのみ成立する共通言語。
もっといえば、凛に心底惚れている俺からすると、彼女の変わらぬ手厳しいお言葉を毎日聴けるというのは、それだけで幸せというものなのだ。
ただ一点だけ懸念があるとすれば……校内で俺と凛が『犬と飼い主様の関係』と実しやかに囁かれていることは、いつかどうにかしなければと思っている。
や、だからMじゃないってば本当に。
──そんな凛にいつか告白したいと、俺は思っている。
ずっと前、小学校の頃から、俺は凛のことが好きだ。
絶賛、長い長い一方通行の道を歩み続けている。
しかし、根っからのコミュ障で物事に消極的な俺にとって、女の子、しかも10年も片思いを続けている相手に想いを告げるというのは、トラックに飛び込んで異世界に転生するほどの難易度がある。
でも内心は……告白したい、付き合いたい。
いつもはツンツンしていて口は悪いけど、本当はとても優しくて甘えたがりで努力家で寂しがり屋な幼馴染を、幸せにしたい。
でも、俺には今、"告白できない理由"があるから、それは叶えられない。
ああ、でも、好きって言いたいなあ。
高校に入ってからもずっと、そんな想いだけが膨らみに膨らみ続けて、実行には移せず、悶々とした日々を送っていた。
送っていた、はずだった。
◇◇◇
「とおるくん」
「……どうした、凛」
ここは、凛の部屋。
ぽわわーっと、凛はらしからぬ力の抜けきった表情をにへらっと笑顔に変えてから、
「だい……好きい……」
ぎゅうううっと、俺に抱きついてきた。
そしてそのまま、押し倒される。
花の蜜みたいに甘い匂い。
春の陽だまりのような温かい体温。
胸部に押し付けられる2つの柔らかい感触。
頭がショートする寸前、俺の上に乗っかっていた凛がゆっくりと身体を持ち上げる。
両腕を伸ばした凛に、上から見下ろされる体勢。
上を見ると、逆光で影が差しててもわかるくらい、慈しさと愛おしさが合わさった極上の笑顔がそこにあった。
「もう、離しませんから」
慈愛に満ち溢れた声と一緒に俺の胸に帰ってきた凛が、また縋り付くように顔を埋めてくる。
その小さな頭に、そっと手を乗せると、凛はくすぐったそうに喉を鳴らした。
なんだ、この可愛い生き物は……。
どうしてこうなったと、心の中で呟き、経緯を回想する。
きっかけは、少しだけ遡る。
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