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榊原清武は、目を開けると突然、どこかのステージのような場所にいた。


周囲からはスポーツで決勝ゴールが決まったときのような歓声が響き渡り、その歓声でステージが地鳴りのように揺れている。


(え、オレ今何してたんだっけ…)

よくは思い出せないが、制服を着ているし…学校にいた気がしなくもない。

なのに何故ここにいるのだろう。一体ここはどこなのか、見当もつかない。


ワケのわからない状況で先ほどから視線の先に映りこんでいるのは、目の前にいる1人の男。自分より少し年上に見えるその男は、何故か苦痛に顔を歪めたような表情をして自分を見下ろしている。

周りの歓声も気になって目を向けたいのに、ひどく整ったその人の辛そうな表情から何故か全く目を離せない。


「神子様、ようこそおいでくださいました!」

そう言って、その男の後ろから別の人物が現れたことでようやく彼から視線が外れる。そこで初めて、このステージの周りに数十名から100名程の人がいることに気がついた。


「え、は?え?」


どういうことだと考えようとしても、意味が分からなすぎて頭が全く機能しない。

呆然としたまま動けずにいると、

「突然のことで驚きでしょう。とりあえず、ここではなんですので、場所を移しましょう。レイ、手伝って差し上げなさい」

「…はい」


目の前にいた男が、「立ち上がれますか?」とオレに手を伸ばす。この人が"レイ"なのだろう。


「…ありがとう、ございます…」


ようやくまともな言葉を発することができたが、何も考えられない頭よりも体の方が状況を理解しているらしい。不安に震えて上手く足に力が入らず、差し出されたその手に縋るようにして立ち上がった。







「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

大きな応接室のようなところに連れてこられて、オレ1人が座った向かい側に、中心に国王と名乗った人、レイさん、その両脇に10名ほどのお偉いさんらしきオジサンがずらっと座り、さらにその周りに数名、帯剣した警備員のような人が等間隔に立っていた。


「…榊原清武です」

とてつもない威圧感を感じ心臓をバクバクとさせながら、それでもなんとか声を絞り出すと、向かい側に並ぶ人々が喜んだようなざわめきを起こし、国王に「もう一度、ゆっくりお願いします」と促される。


「さかきばらきよたけ、です」

「サ…キョ…?」

「さ か き ば ら き よ た け」

何度か名前を繰り返しただけなのに、何故か周りの人が感嘆の声を上げながら頷き合っていた。


「そうですか。神子様は異世界から来られても言葉が通じる、そしてお名前だけが何故か上手く聞き取れないと言うのは本当だったのですね。申し訳ありませんが、私どもにはサとキヨ以外は動物の鳴き声のような、動作音のような、不思議な音に聞こえて聞き取ることができませんでした。どのようにお呼びしたらよろしいでしょうか…?」

「キヨで、大丈夫です」

「わかりました。キヨ様ですね」

それから国王による直々の説明が始まった。



「我々の世界では、異世界から神子様を召喚すると、国が豊かで平和になるとされています。そこで召喚の儀式を行ったところ、キヨ様がおいでになりました。キヨ様は我が国始まって以来の神子様でございます!

突然神子様と言われて驚かれているかもしれませんが、特別何かしていただく必要はありません。国に留まっていただけるだけでいいのです。

ただ1つだけ、身分を保障、そして保護するために、召喚した者と婚姻を結んで頂きたいと思います」


王様にそんなようなことを言われた。もっと長く丁寧に、神子様や召喚についてだの王様がいかに嬉しいのかだのをしゃべっていたが、要約するとそんな内容だった。


キヨは異世界に来る前…日本でラノベやネット小説を愛読していたため、話を聞いてすぐにある言葉が浮かんだ。


(異世界、トリップ…)

異世界トリップ。異世界転移とも言われるそのジャンルは、その名の通り、住んでた世界とは異なる世界にある日突然転移されてしまうもので、近年、日本で盛大な人気をみせていた。


目の前にいる人々は、顔立ちは日本人の様な彫りが浅めのなのに、明らかに日本人とは違う白い肌に綺麗な灰色の髪や瞳をしていて、お城のような場所で昔の貴族のような格好をしていて。まさに異世界トリップ(神子様バージョン)のテンプレのような説明をしてくるのだ。

これは異世界トリップ以外に考えられないだろう。


無駄に知識があるせいで状況はなんとなく理解はできた。でも…

(こういうのって、美少女がテンプレじゃないの?何でオレ…!)

異世界トリップを読むのは好きだったが、自分がトリップする事なんて微塵も望んではいなかった。

頭も体も非現実的なこの現実を受け止めることを拒否し、サァっと血の気が引いいく。イスに座っているのに今にも倒れてしまいそうだ。



「…大丈夫ですか?顔色が優れないようですが…」

そう声をかけてきたのは、国王の隣に座っている“レイ“と呼ばれていたあの人。


「あ…えと…」

どう言葉にしていいのかわからずその人の顔を見るが、嬉しさを隠しきれない周りの人々とは違い、レイさんも顔色が良いとはとても言えない、硬い表情をしていた。


「…突然のことでさぞ驚かれているのでしょう。説明など明日以降にでもいくらでもできるのです。とりあえずお体を休めていただくのが先決では…」

「…しかし式のことがあるのだ、早急にお話しせねば。3日後には挙げていただくことになるだろう?説明は明日以降にするにしても、せめて採寸をさせていただかないことには間に合わない」

「…っ!分かり、ました…」


そんな2人の会話に、

(え、式?てか3日後?!何それ、採寸なんていいから今すぐ説明してくれ…!!)

と思ったが、とても発言できる感じではなく。

あれよあれよという間に採寸されてから、ホテルのスイートルムってきっとこういう部屋なんだろうなって感じの部屋に「お体をお休めください」と押し込まれた。


そして翌日、未だにパンクいたまま働かない頭に、結婚は確定事項で式を2日後に挙げることを告げられ、それから式に必要な所作や基本的な礼儀作法などを有無をいわさず詰め込まれて、そうして流されるまま本当に挙式してしまった。

しかも相手は召喚者だというレイさん(男)だ。


召還されてから3日しか経っていないのに、まるで最初から準備されていたかのような豪華な式は、滞りなく行われた。

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