NEW WORLD③


分厚い雲はより一層空を覆いつくし、降りそうで降らない雨になにか不穏な空気を感じさせた。

冬史朗、美花は、勘を頼りに雪の姿を探したが、見つけることができないまま2時間ほどが過ぎようとしていた。しかし、今こうして二人が雪を探せている時点で、一方のデネブもまだ校庭にたどり着けていないということだ。

「冬史朗、ほかに心当たりは?」

「うーむ、俺のセンサーに引っかかるところは行きつくしたし・・・、まいったな」

「あんたの妹センサー(仮)も疲れて狂っちゃたんじゃないのー? 本物の妹から先に見つけちゃうなんて。センサーとか頼ってないで、初心に帰って泥臭く探す?」

「そう、だな・・・」

ふと、冬史朗は何かが引っ掛かり、アクセルを回そうとする美花の手を握った。

「!? な、なに!? ちょちょっ、ちょっと! みんなにモニターで見られてるんだから!!」

動揺する美花をよそに、冬史朗は引っかかりの理由を探っていた。

「美花、今、なんて言った?」

「ええっ? だーかーら、みんなに見られてるところではっ」

「いや、それじゃない」

「・・・」

美花は恥ずかしさで顔が熱くなった。

「・・・こほん。どれのことよ。妹センサー?」

「もうちょい後」

「??? 初心に帰って泥臭く?」

「初心に、帰って・・・」

冬史朗の、様々な格好をした雪でいっぱいの頭の中に、初心に帰るという言葉がぐるぐると回った。セーラー服の雪、チャイナ服の雪、スクール水着の雪、ワンピースの雪、ホットパンツの雪、タイトスーツの雪、笑顔の雪、頬を膨らませる雪、あたり一面雪、雪、雪・・・。

「ちょっと? 冬史朗? こら。おーい」

あっという間に元通りの脳内になった冬史朗は、さっきまでのさながら推理する探偵のような顔はどこえやら、ただの変態面になっている。

「こら変態。おーい」

ぺちぺちと頬を叩くが、変態は中々手強く、戻ってこない。

「おい変態ってば!! 時間がないって!! こらー!!!」

バチン!!と力いっぱい頬と叩く気持ちのいい音がモニター越しに地球中に響き渡った。

「おおっ!? 美花、いつの間に!? ここはどこだ?」

「・・・はー。バカいってないで・・・」

冬史朗は半分夢見心地のまま、ようやく状況を思い出すに至った。

「美花、お前のおかげで思いついたぜこの天才が」

「今ところただの変態なんだけど・・・」

「まだ一か所探してないとこがあったぜ、センサーに引っかかってたのに」


ちょうどお昼の重箱を開けた時、息子と、息子を乗せた近所の娘さんがバイクで帰ってきたことに、冬史朗の母は気づいた。

「あら、あんたどうしたのよ。トイレ?」

「ちげーよ、もらうぜ一つ」

重箱からから揚げを一つまみ取ると、冬史朗は口の放り込んだ。

「みーちゃんは? 一つどう?」

「ありがとうおばさん!」

から揚げを食べながら、二人は丘野下家へ入っていく。

慌てて階段を駆け上がると、冬史朗は思い切り雪の部屋のドアを開けた。

そこには、ベッドで眠る雪と、そしてその横に凛として立つ、デネブが居た。曇り空のため暗い部屋の中で、ひときわ整った顔が輝く。不敵な笑みを浮かべて立っていた。

「雪!!」

冬史朗はベッドに駆けつけると、雪に膝立ちでその美しい弟の顔に手を添えた。

「雪、良かったやっと見つけたぜ・・・。なんて可愛い寝顔なんだ・・・。マイエンジェル・・・」

「おい」

雪はチャイナ服姿のまま、お腹の上で手を組み、すやすやと寝息を立てている。

「・・・眠れる姫を目覚めさせるには、やはり王子様のキキキ、キッスで・・・」

「こら」

「いや、冬史朗、そういう戦いじゃなかった気がするんだけど・・・。あと、ほら、その」

美花は申し訳なさそうにデネブをちら見しながら、冬史朗に話しかけた。

「雪、今目覚めさせてやるからな」

「いい加減に」

「冬史朗、あんたの視野はどうなってんのよ! だから雪の前にほらっ・・・」

「流石の俺も、変な扉が開いてしまいそうだぜ・・・」

「おい、こら、ゴミクズ」

「冬史朗、ちょっといい加減気づかないとかわいそう・・・」

「いくぜ」

「いくな」

ぽかり、と美花は冬史朗の頭を小突いた。

「いって・・・、お?」

冬史朗は首筋になにか冷たいものが当たるのを感じた。

気づくと、冬史朗の首元に、銀色の剣が添えられていた。背後に立ったデネブから伸びた剣は、首に添えられてぴたりと止められている。

「貴様が扉を開く前に、ケリをつけようじゃないか」

冷たい目をするデネブ。状況が飲み込めず動けない冬史朗をよそに、美花の悲鳴が響いたのだった。

「きゃああああああ!!!」


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