全員モヤシになっちまえ
倉本 紺
1 開花
「ばーかばーか、このモヤシ顔!こっち見んじゃねーよ」
ボクは今、いじめられている。
なぜ容姿が劣っているだけでいじめられるのだろう。
しかもなんだ、「モヤシ顔」って。
モヤシみたいにガリガリでノッポなやつなら分かるぜ?
だけどさ、ボク、そんなに背高くないしガリガリでもないよ?なんでなのさ???
◇
ボクがいじめを受けるようになったのは中学2年生に進級してからだ。
1年生の頃はそんなに人付き合いが上手な方ではなかったけれど、それなりに仲良くしている友達はいた。
今の状況に陥ったのは始業式後。
ボクは昨年の合唱祭で指揮者をしたところ、音楽の先生に認められ、今年の始業式で校歌の指揮をすることになった。
いよいよ本番。全校生徒による校歌斉唱。
ボクは一段一段、足を踏み外さないようにして舞台へ上がる。
指揮は見事なまでに完璧だった。まともに歌う生徒はいなかったが。
ボクはあまりにも指揮が完璧に出来たので、始業式後、ニコニコしながら教室へ戻った。
ボクは席につくと背後から声をかけられた。振り返ったそのとき。
バチコーン!
ボクはいきなりのことで何が起こったかよく分からなかった、が、じんわりとした痛みが染みてきてようやく上履きで頭をぶたれたことに気がついた。
そのままボクは数人に両脇を取り押さえられ、男子便所に引きずり込まれた。
地面に叩きつけられると、主犯格の山下が顔を近づけてきた。
山下は背が170センチくらいあって、ガタイも良い。やけにテカテカした短髪、ほとんど剃ってしまった眉毛、メダカが2匹泳いでるようなちっさい目。いかにも不良っぽいやつだ。
「お前、モヤシだな。お前は退治しなくちゃなんねーんだ。」
へ?いきなり何を言ってるんだ?
山下はボクの胸ぐらをつかんでなお続ける。
「俺は分かってんだぞ。おいモヤシ顔、なんか言えよ」
へ?へ??全く意味が分からない。
「ま、いいや。今度は許さねえからな」
へ?ボクが何をしたと言うのだ。ヘラヘラした顔で教室に戻ってきたのがいけなかったのか?
山下はボクを突き飛ばすと、そのまま去っていった。
残りのやつらは1人ずつボクを蹴り倒してから去っていった。
◇
そして話は戻る…とはいってもまたいじめられている。
今は山下がいなくて3人に囲われている。
3方向にワイシャツを引っ張られて、もうビリビリになっている。
しかししばらくすると飽きたのか、1人が「こいつに一番大きいたんこぶを作ったやつが優勝な」と言い始めた。
「まず俺から」バコン!鈍い音がなる。
「うぇーい!なかなかいいんじゃない?次は俺な!」
ぶんっ。空振り。
「ハハハハハ!お前ヘタクソかよー!」
「もっかい!もう1回だけチャンスくれ!」
「イヤだねー!お前負け確定~ジュースおごれや~」
「じゃあ次は俺な!見てろよ!過去1の必殺技かましたるわ」
…もうやめてくれ。
「キャハハハハ!いくぜ!ひっさーつ!」
…やめてくれ。
「アゴ粉砕!」
…やめろ!
「パーンチ!!!!!」
やめろ!!!!!!
……、
……。
……?
あれ?反応が無いぞ。
痛みもない。どういうことだ?
恐る恐る片目を開ける。
…ん?
もう片方も開ける。
…あれ?今目の前で殴ろうとしてきたやつは?
…いない?なんで、、
「こ、こいつ、バケモンだっ」
「た、たたたたたたすけてぇ!」
キャー!!!!!という叫び声と共に彼らは腰を抜かしながら、お化け屋敷で全力ダッシュするあの速度で去っていった。
何が起きたのだ?ボクの後ろに何かいるのか…?
ボクも正直言ってビビリだから、こ、こわい…
震えながら後ろをふりかえる!が、何もない。
正面にまた戻ると床にはモヤシが1本落ちていた。
こんなところにモヤシ?今日の給食ってモヤシ出たっけ?
ボクはまだこのとき気づかなかった。
ボク自身にある変化が起きたことを…。
全員モヤシになっちまえ 倉本 紺 @asagaodesuyon
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