ガッコウノカイダン
アンドレイ田中
1話
ミンミンと鳴く蝉の声と体に当たってくる夏の日光によって
彼は上半身を起こして体を伸ばした。
「んんんんーっ!はぁ。よく寝た」
リラックスした後に時計を見ると10時23分を指していた。
彼は絶賛小学6年生の夏休みを謳歌しているところだ。
優斗はベットから降り、1階へと続く階段を下ってリビングに入った。
リビングは誰もいない。
ここ数日、優斗はこのような生活を毎日送っていた。
リビングの中央に設置されている机の上に置かれているテレビのリモコンを手に取り
テレビの電源を入れた。
キッチンテーブルに置いていた食パンの袋から食パンを1枚取り出しトースター入れて焼く。
チンっと音がなりトースターからトーストを取り出しお皿に乗せて運び席に着く。
トーストに冷蔵庫に入っていたイチゴジャムを塗り食べ始めた。
プルルルルルルと優斗の家の固定電話が着信鳴り響いた。
太い声がスピーカーを通して聞こえた。その声の主は友達の
「あ、もしもし」
「どうしたんだ。朝早くに」
「早くないだろ。それより今日の夜、学校に忍び込もうぜ!」
「は?」
「夜の8時30分に裏門に集合な!じゃ!」
「え、ちょ、ま・・・。切れた」
時は過ぎて夏の日も落ちていった。
午後8時10分に優斗は家を出ていった。夏も終わり欠けだからだろうかかなり暗くなっている。
15分ほど歩き学校の裏門につくとがたいが良く163cm程はある大きな男が優斗は董志に声をかけた。彼が優斗をこの場所に呼んだものであり優斗の友達の董志だ。
「優斗、おせーよ」
「なんでだよ。てか、なんでこんな時間に呼び出したんだ?」
「まぁ、待てよ」
そういうと近くの角から3人の影が見えた。
「お、来た来た」
董志は角から現れた影を見て待ってましたと言わんばかりのニヤつき顔をした。
「久しぶり優斗」
「久しぶり優斗君」
「おひさー優斗!」
その影は優斗の友達の
董志が『うっし』と壁を蹴って、優斗達4人の前に董志が立って話始めた。
「今日集まってもらったのは他でもない。今日は俺らでこの学校に伝わる怪談を全部試そうと思って集まってもらった」
この学校の七不思議の始まりは誰も知らない。ただ七不思議の伝説だけが児童から下の児童へと口承され続けた。
1つ目 増減する階段
2つ目 美術室のモナリザ
3つ目 理科室の動く人体模型
4つ目 音楽室のピアノ
5つ目 トイレの花子さん
6つ目 家庭科室の合わせ鏡
そして、7つ目は不明である。
この7つ目は何が起こるのか分からない。
これにはたくさんの噂があるがどれも根拠がないのだ。そこにいたものは心臓の鼓動が速くなり足の震えが止まらなくなった。
女子は手を繋いで、鴨中は両手を後ろに組み、董志はニヒルな笑みを浮かべていた。
彼らが通う小学校には他とは比べ物にならない程の7つの怪談があったのだ。それを試そうと言うのだ。その上、小学生なのだから尚更怖がって当然だ。
「いや、辞めとこうよ」
「そ、そうよ。もしお化けが出たら…」
優斗と長華は声を震わせながら董志に言った。
その声は董志に届かなかった。
「なんだよ!ビビってんのかよ。お化けなんて居るわけねぇだろ!居たら俺がぶん殴ってやる」
董志が優斗を小馬鹿にするように笑い、力こぶを見せつけるように作った。
「び、ビビッてねぇ!ほら、行くんだろ!
さっさと行くぞ」
優斗は裏門の横にある柵をよじ登り学校に侵入した。その後に他の4人も続いて行った。
優斗は学校に入ろうとしたがどこの扉も空いてはいなかった。
後ろから童志はクックックと笑って優斗に近づいて言った。
「ドアなんて空いてねぇよ。あそこの窓を入るために開けといたから」
と、窓を指を指していた。優斗は初めから言ってくれよと思った。
鉄棒を回るように両手で体を支えて学校の中に5人は入っていった。
夜の学校はやはり不気味でお化けなどは出ないとはわかっている5人ではあるがそれでもいるのではないからと考えてしまう。
「は、早く行こうぜ」
信輔が董志の肩に手を当てて言った。
「そうだな」
董志はポケットに入っていた大き目のノートの切れ端を取り出して動き出した。
それに続くように4人は後ろを歩いていく。
「は、初めはどこに行くの?」
震えた声の長華が董志の服の先を左手で摘んで引き止めながら言った。右手は芽菜の左手と繋がっている。余程夜の学校というのが怖いのだろうか。それとも、学校の怪談が怖いのだろうか。いやその両方のせいであろう。
「まずは『増減する階段』だ」
『増減する階段』1階の中央階段が上がる時は13段なのに下りる時は12段に1段減っている。というものだ。
上履きを履いていないから足音もなく蛍光灯よりも弱々しい月明かりが窓から差してくる。その光だけを頼りに歩いていった。
下駄箱に背を向け、中央階段を前に彼ら5人が立っている。
「すぅーっはァァ。うし。行くぞ」
董志が深呼吸をして話しかけた。それに他の4人は頷いて返事をした。
「1、2、3、4…12。ふぅ戻るぞ」
董志の声が廊下に少し反響した。全員の心臓がバクバクと爆発しそうなくらいなっている。
「1、2、3、4…12、1…3」
その時全員が息を飲んだ。それが当たり前の反応だろう。12段だったはずの階段が1段増えているのだから。
「ふ、増え、て、る」
「か、数え間違えだろ…」
そういった董志は階段をもう一度確認するように力ずよく登って降りた。
「やっぱり13段だ…」
「ま、マジかよ…。オ、オーケー。じゃあ次に、行こうぜ。ははは…」
董志は空笑いを零しながら、他の者たちは今まで以上に恐怖を感じて次の場所に向かった。
中央階段からすぐの場所。美術室だ。ここの後ろの壁にはレオナルド・ダ・ヴィンチの描いた作品『モナリザ』のコピーが飾られている。夜になるとその絵が血の涙を流す。というものだ。
5人は一言も話さず重たい足取りで短い距離を移動する。
音を立てないようにそろそろと扉を開き、中へ入っていく。
「…ここはなんもないよね」
「…ないことを願ってる」
芽菜が言うと鴨中が答えた。そして静けさが戻る。
ポタッポタッ何かが滴って床に落ちる音がした。5人の心臓の音はドンドンドンドンと聞こえるのではないかと感じるくらい速く、大きくなる。呼吸は荒くなり、肩で息をするようになる。そしてゆっくりと音の鳴るほうへ顔を向けた。そこにはモナリザの絵が掛かっていた。その絵からは絵の具の赤色よりも深みのある色が目の位置から垂れている。それは絵をつたい、額縁に溜まり、床にぽたぽたと落ちている。
叫びたくなる感情を押し殺し、美術室を後にした。
その教室の前で5人は立ち止まった。
「…これでもまだ続けるの?」
静かに芽菜は口を開きそう董志に言った。
「あぁ俺は続ける。俺はやらなきゃなんないんだ」
「どうして?」
「たまたま聞いたんだよ。この学校の七不思議の『7つ目』のこと。それは6つを全てを乗り越えたらどんな願いだって叶うって」
これも7つ目の噂の一つだ。本当かも分からない。
「そうなの…「デマかも知れないって」
「うん…」
「けどな、それしかないんだよ。俺の妹、体弱いだろ」
「…そうね」
「俺はそんなアイツに外で思いっきり遊んで欲しいんだ。けど、俺にはどうにも出来ねぇ。だからこの噂を信じてぇんだ。こんなの俺のわがままだ。だから、帰りたい奴は帰ればいい。わざわざ怖い思いさせて悪かったな」
1人で進んで行こうとする董志の肩を優斗は掴んだ。
「水臭いじゃん、俺たち友達だろ。友達が困ってたら助けてやらなくっちゃ行けないだろ。俺も一緒に行く」
ニカッと優斗は笑顔で董志に言った。
「な、な、なら僕も…行く」
「しょうがないわね。ここで帰ったら夢見心地悪そうだし」
「それなら…私も」
信輔、芽菜、長華も後からついてきた。
「なら、行こうぜ」
再び空気が軽くなった。
12段の中央階段を上り2階へ上がった。
階段の真ん中辺りから廊下にはカタッカタッカタッと言う音が響き渡っている。その音との距離階段を上る度、段々と近くなっていく。
階段の上りきったその時、音の正体は現れた。プラスチック製で左半身は赤く、右半身は薄橙色の体を持つ『人体模型』が。
人体模型は壁で曲がりまた走り出した。そのまま前を通り過ぎて行ってくれればどれほど良かったのだろうか。人体模型は5人の前で立ち止まり、首を90度回転させ、じっと見つめた。無機物の目は彼ら5人を見つめて離さない。瞬きもすること無くただじっと見つめている。その時間はとても長く感じられた。再び首を90度回転させて走り出した。
その時、ただシンプルに『恐怖』の感情が5人の心を支配した。
「よ、よし。行くぞ」
董志は目配せをして、動き出した。
5人は人体模型が進んで行った方向に足を向けて歩く。前には人体模型の姿は見当たらない。恐らく先にある階段からどこかに移動したのだろう。音楽室に近づくにつれポロン、ポロンとピアノの音が聞こえてきた。
「あ、この曲…」
「知ってんの?」
芽菜が長華に聞く。それに対して頷いて返す長華。
「これ『エリーゼのために』って曲」
音楽室のピアノの噂。音楽室から鳴る曲を4回聞くと死ぬ。
「今ので1回目」
「…速めに行こう」
歩くスピードを上げて音楽室の前を通ろうとするが長華があることに気づいた。
「曲のテンポが段々早くなってる。もう2周目が終わってる」
「お前ら一気に走り抜けるぞ!」
「急げ!」
「3周目終わりました!」
「間に合えぇぇぇ!!!!」
階段を一気に駆け上がり音が聞こえないところまで行った。
「はぁ、はぁ、何とか、間に合った」
全員息を切らし、肩で呼吸をしている。
「大丈夫か?」
優斗がみんなに尋ねる。
「何とかね」
「じゃあ次に行こう」
董志と優斗が目配せをして2人を先頭にして
次の場所へと向かう。
「ここだ」
「男子が入って大丈夫なの?」
「大丈夫でしょ。誰も見てないし」
一行が到着したのはかの有名な3階の女子トイレの前だ。
ここには5つ目の噂『トイレの花子さん』が居るらしい。呼び出し方は至って簡単だ。
3階の3番目のトイレの扉を3回ノックしてから『花子さんいらっしゃいますか』と3回唱える。そうすれば返事が返ってくるらしい。
「ふう、さてと…行くか」
と、女子トイレに遠慮なしにズカズカと入っていく。
「えーっと、1、2、3。ここだ」
「誰がする?」
「ぼ、僕がやるよ」
後ろにいた信輔が前に出て言った。
「任せるぜ信輔!」
「ま、任せてよ!」
自分を鼓舞するように心臓の辺りを叩く。
本当は怖いのだろう。信輔は怖がりだ。だけど人一倍友達思いだ。これは恐らく自分も董志の力になりたいから自分自身を奮い立たせて前に来たんだろう。
信輔がトイレの扉を3回ノックする。そのことを強調するように音が反響する。
口を開け震える声で言う。
「花子さんいらっしゃいますか。花子さん、いらっしゃいますか。花子、さん、いらっしゃい、ます、か。」
返事がなく静寂がこの場に流れる。皆が固唾を飲む。そして5人が顔を見合わせホッとした時だった。便器しかないトイレの中から音が聞こえた。
「はぁーい」
その一つの声は5人を震え上がらせた。心臓はドッドッドッと段々ペースが早くなっていく。5人全員ただの一つ微動だにしない。
「だ、誰かの悪い冗談だろ!」
董志は勢い良く扉を開けた。そこには誰もいないどころか音を出す物すらない。
「な、何も、、、無い。」
「と、董志!上!」
トイレの壁の上、左奥に何かがいる。その何かの正体は窓から指してくる月明かりで見えた。
色白い肌に白の半袖のブラウス、赤色のサスペンダーとスカーを履いて、おカッパ頭の少女が現れた。間違えがない。あれが花子さんだ。
「に、逃げろー!!」
董志は後退りして、体の向きを変えて走り出す。それを見てから他の4人も動き出す。
「逃がさない」
花子さんは髪の毛を伸ばして董志の足に巻き付けた。そのせいで董志が転ぶ。どんどんと女子トイレに引きずられていく。何とか女子トイレから出ることが出来てそれを見ていることしかできない他の4人。
「あぁー!」
信輔がポケットから何かを取り出して董志の方に向かっていく。
「早く逃げろ」
と、言う董志。
「何言ってんの!董志も一緒に逃げるんだよ!」
手に持っていた何かで董志の足に巻き付いていた髪の毛を切り落とし、董志の手を掴む。
投資は力強く手を握り、起き上がってまた走り出す。何とか3人のところに合流できた。
トイレからは禍々しい叫び声が聞こえ、それは次第に小さくなっていき、しまいには消えてしまった。董志の足には生々しい髪の毛の巻き付いていたあとが出来ていた。
「信輔、何でアイツの髪の毛を切ったんだ?」
「ん、あぁ。これだよ」
と、手に握っていたポケットナイフを4人に見せた。
「なんでこんなの持ってたんだよ」
「一応何かあった時に対処出来るように持ってきてたんだよ」
「そうか。まぁ助かったしオールオーケー」
「次でラストだ。早く行こう」
優斗がみんなに伝える。
それに対して頷く。
そしての家庭科室へと向かう。
「ここですね」
「早速入ろう」
ガラガラっと扉を開ける。
奥には茶色の木のフレームに囲まれて百数十センチ位の鏡が互いのことを映しあっている。
「あれが…『家庭科室の合わせ鏡』」
6つ目の怪談『家庭科室の合わせ鏡』。
合わせ鏡になっている間に入って映った時に4つ目の鏡にいる自分を見ると幽霊に体を乗っ取られる。
「あれじゃ俺ら全員は映れないな」
「じゃあ誰が1人だね」
「誰が行くの?」
少し時間が空き、優斗が手を挙げて初めに話し始めた。
「俺が行く」
「頼んだぜ。優斗」
「任せとけ」
右肩を董志に握られ、そして押される。
優斗自身も何故行ったのかわからないのだ。
それこそ何か不思議な力が彼の背中を押したのだ。
そして、合わせ鏡の前に優斗は立った。
鏡には永遠と今の自分の姿が映し出されている。
ただ一つを除いては。
それは例の4つ目に映っている優斗だ。それは優斗と何一つとして変わっていないのに彼ではないように感じる。
その鏡の優斗は1度ニヤリと笑った。
それに驚き目をゴシゴシとこすり、もう1度見た。が、何も起こらなかった。
「どうした?何かあったか?」
董志が優斗に聞く。
「さっき鏡ににやついてる自分が見えた気がしたけど気のせいだった」
「そうか。なら、これで全部クリアだ!」
5人で手を叩きあう。
「外に出て帰ろうぜ」
「そうね」「もう遅いし」「帰ろ、帰ろ」
みんなが口々に話し出す。
帰りは不思議なほど何も起こらなかった。
真ん中の階段を下っていき、来た時と同じように窓から外に出る。
学校の敷地内から出て董志の『解散』というのを聞いて家に帰っていく。
「あああああああああ」
学校の肝試しを終えた優斗は風呂から上がり、扇風機に当たっていた。
そんな時もつかの間。家の壁掛け時計を見ると11時半を指していた。
「そろそろ寝るかな」
優斗はキンキンに冷えているアイス枕を抱えて階段を上る。
だが、足を滑らせて膝をぶつけてしまった。
「痛ってえええええ!」
優斗は階段の上で足を抱えながら蹲っている。
痛みがある程度おさまり階段をゆっくり上り、自分の部屋に行き、ベットに倒れ込んだ。
ぶつけたから冷やしておかないとな。と思って膝にアイス枕をのっけて、深い眠りに入った。
「ったく、こんな時間に『醤油がなくなったから買ってこい』って酷過ぎるだろ」
董志は母に無理やり買い物に行かされていた。
「しんやはいかい?ってので警察に捕まったらどうすんだよ」
と、ぶつぶつ文句を言ってると後ろからいきなり殴られた。
「いってえなあ!こっちは腹が立ってんだよ!」
だが、そんなことお構いなしに殴られる。
暗いからなかなか相手の姿が見えない。
一方的に殴られる董志。
だが、1瞬のスキができたとき足に思いっきりの蹴りを食らわした。
それが効いたのか、襲ってきた者は走って逃げて行った。
限界が来ていたのだろう。董志はその場で意識を失ってしまった。
その後、朝に散歩をしていたおじいさんが董志を偶然見つけ病院に通報した。
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