第8話「ヴァイパーという者」
今日の試合は夜間闘技、夜の場もあるらしい。
「ノエル、ねえ……」
最初はリコラも見る気がなかったのだが、先程見た対戦表に出ていた名前、そこに知った名前があったのだ。
「どこまで、あの泥棒に出来るものやら」
疲れている身、であるとはいえその夜の試合は何か、観戦したい所。自分と戦ったノエル少年が他の相手にどこまで善戦できるか、それも興味がある。
「赤コーナー、Cランクノエル選手!!」
ボリボリと菓子を摘まんでいるリコラの視線の先で照明灯に照らされた ノエルの顔、ニキビが微かに浮いた黒髪の少年の姿格好がスッと浮かぶ。
「見ずらいわねぇ……」
この野良闘技場の蛍光灯はチラチラと光を点滅させ、そのコロシアムを見るリコラの目に嫌な気分を与える。
「青コーナー、Aランクヴァイパー選手!!」
「あの男ね……」
ガラフによって警告されていた男、赤茶けた長いウェーブの髪を電光灯によって靡かせ、この暑いのにコートにと身を包んだ長身の男は、何か不敵な笑みを浮かべたまま、身を強く身構えているノエル少年をじっと見つめていた。
「本日最後の試合、レディ……」
バニーガールの服装に身を包んだ審判、彼女がその手を大きく上に上げると共に、ノエル少年もヴァイパーという男も、その腕を軽く前にと押し出す。
「ゴー!!」
鐘の音と共に二人が同時に動き、夜の闇の中、ノエルが放った弾丸がヴァイパーの走る先にとばらまかれる。
「弱いか、あの男……?」
リコラの《
「《
続いてノエル少年の腕から放たれる炸裂弾、リコラの
「ヴァイパー選手、《
紅く輝く円盤、それをもってノエルからの《
「《
「ガラフさん」
「そのぶん、防御能力は高いが」
いつの間にかリコラの背後にと立つガラフ、相も変わらずフードコートにその身を包んだ彼は、リコラにソフトドリンクを手渡しながらも、そのノエル達の試合をじっと見つめている。
「……ほう、やるな」
その優男風の外見にも似合わない、ヴァイパー選手の意外に低い声、彼がその声を放ったと同時に己れの薄い唇を軽く吊り上げ、薄暗い闇の中でもハッキリと解るような、蔑んだ笑みをノエルにと向けてみせた。
「なめるな!!」
生身の脚でリング上を駆けるノエル、彼はそのまま両手から銃弾をヴァイパーに向けて連射するが、今度は身のこなしをもってその銃弾を回避し続けるヴァイパー選手。全く弾丸が当たらない風であるヴァイパーの姿を見るに、何か別のマシンリムを使っているのもしれない。
「ヴァイパー選手、何か手を差し出しているー!?」
審判の彼女がそう言うように、ヴァイパーはノエルから放たれ続ける弾丸を回避しつつ、その右手をノエル少年の方に差し出し、薄笑いを浮かべたまま彼との間合いを測っている、ように見える。
「リコラ、よく見ておけ」
「何を……?」
「もしかすると、アイツと対戦する羽目になるかもしれないからな」
「……」
そのガラフの言葉にリコラは無言で、その口に含んだピーナッツを噛み砕く。
「これで!!」
全く当たらない銃弾、己れの攻撃を焦りを感じ始めたのであろう、ノエル少年はその腕から再び炸裂弾を放り出し、どうにか彼の身体に命中弾を与えようとする。
「おっと……!!」
ヴァイパーの足元で爆発したその《
「今だ!!」
その時を好機とみたノエルはその両腕を構え直し、再び弾幕を射出させようとする、しかし。
「……な!?」
「……ノエル選手、攻撃の手を休めているー!?」
「弾が、でねぇ!!」
ノエル、彼はその顔に汗をかきながら、何度も己れのマシンリムの銃口をヴァイパーにと向けて、撃ち放とうとしているようだ。
「おいおい、おめぇのそのマシンリムとやらは……」
そのノエルの様子をさも面白そうに見詰めているヴァイパー選手、彼はその手を、ノエルにと差し出し続けた右腕を軽く振り。
「これじゃねぇのかい!?」
「……!?」
一斉射、ノエルの方向に向けてその腕から生やした銃器の口から弾丸を放つ。
「ランクC、《
「ど、どういうことだよ!?」
「わるくぁ、ねえな!!」
その顔に恐怖の色を宿しながら後ずさりするノエル、彼の足元に左腕から炸裂弾を一発放ったヴァイパーは、リング上で甲高い声を一つ上げた。
「これだから、ルーキーキラーは止められねぇ!!」
そして、ヴァイパーはそのまま自身の左手のひらから謎の光線を放つと、その光条を受けたノエル少年をそのままリングの外にと突き落とす。
「起きない方がいいぜ、にぃちゃん」
「……クッ!!」
「どうせ、勝ち目はねぇみたいなんだからよ」
そう、少年を嘲った声をあげながらヴァイパーは、そのまま審判の女性の方へと向き。
「ほらほら、カウントはどうした!?」
「い、一……」
女性によるカウント、そして客の歓声が響くなか、リコラとガラフはそのヴァイパー、彼の姿にその目をじっと注いでいる。
「手強い奴だ」
「……」
「得体が知れないか?」
「はい……」
「アイツはな、リコラ」
「はい」
夜の闇が冷えてきた。ガラフは微かに身体を身震いさせた後、闘技場の出口にとその脚を伸ばして、リコラに対しその背を見せた時に。
「何でしょう?」
「ルーキーキラー、初心者殺しの奴だ」
「卑怯者、そういう事ですか?」
「それだけなら、俺もレイチェルもアイツに苦戦しなかったんだがなぁ……」
苦笑を帯びた風にそう言い放ったガラフ。立ち去っていく彼のその最後の言葉の意味、そう「俺も」という言葉を噛み締めながら、リコラはノエル少年が敗北したという審判の宣言を、自身の耳にと入れる。
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