第6話「食堂の少女」

  

「遺跡へ挑む為に、腕試しとして闘技へね……」


 あの少年を追い払った眼帯の男、リコラは戦いのイロハを習った事がある、かなりやつれた感があるこのガラフという男から飲み物を奢って貰いつつ、その言葉に軽く頷いてみせた。


「ごくろうな事だな」

「何よ、あたしを馬鹿にするんですか、ガラフさん?」

「いや、皮肉ではなくてな」


 そう言いながらガラフはその手に掴んだ煙草を灰皿に置き、自身も軽い食事を開始する。


「昔の俺と、同じような事を言っていると思って」

「ふぅん……」


 その話はレイチェル、リコラが慕っている「ハンター」から聴いた事がある。まだ彼女がこのガラフとの間に繋がりがあった頃だ。


「ガラフさんは、遺跡には何を求めて?」

「決まっているじゃないか」


 スパゲティをその口に頬張りながらその顔をしかめてみせるガラフ。彼に見習って、リコラも自分の食事にとその手を付け始めた。


「名声と金、まあそれだな」

「やっぱりね……」

「ハンターなんてもんは」

「はい」

「まあ……」


 リコラはその静かな口調で話すガラフの言葉に、サンドイッチを食べる手も止めて聞き入っている。


「やっぱり、それしかないな」

「まあ、そうだけど」

「俺の村は貧しくてな」

「それもレイチェルさんから聴いた」

「少しでもマシンリム適性があった奴は、皆出稼ぎに出されていた」


 どこか遠くをみるようなガラフの目、リコラは彼が何年も故郷に帰っていないと聴いている。かなり昔からの話だ。


「レイチェルの奴もな」

「ふーん」

「俺よりもアイツは、かなりの適性があった」

「……」


 普段はレイチェルの事をあまり話さないガラフ、その彼がこう話すのは、何か理由があるのかもしれない。


「ん……?」


 その時夕焼けの光が届く店内、その中に浮かぶリコラ達のテーブルに、何やら一人の少女がつぶらな瞳を向けている。


「どうしたの、お嬢ちゃん?」

「……」

「あの……」

「美味しそうですね」

「はあ?」


 その妙な言葉を吐いた少女、ウェーブが掛かった長い金髪に漆黒の服、その身を「マシンリム」にまみれさせながらも、どこかの貴族のような格好であるその少女は。


 キィ……


 その額のセンサーアイを動かすとともに、リコラが食べているサンドイッチに見入っている。


「あなた、迷子?」

「それ食べるの、どこに行けばいいのですか?」

「それはその、カウンターでお金を払えば……」

「お金?」

「そう、お金」


 リコラのその言葉に少女は、暫しの間何かを考えていた風であったが、一つその手を叩いてから自身の懐のポケット、そこから宝石で彩られた財布らしき物を取り出す。


「ちょっと、ここでそんな豪華な物を出しては……」


 襲われるよ、そうリコラは言いかけたが、少女はそのリコラの言葉に耳を貸さずその財布の中身をテーブルの上にとぶちまける。


「オイオイ……」


 ガラフが呆れたように見つめるテーブルの上、そこには色とりどりの宝石や金貨銀貨が拡がっている。思わず自らの身体をもって、その光景を隠そうとするガラフとリコラ。


「早くしまって、お嬢ちゃん……!!」

「買えるかな?」

「買える、買えるから」


 その顔に何かひきつったような表情を張り付けるリコラ、その彼女の顔色をじっと見ていた少女は、そのままテーブルの上に拡がった宝石類を、急いだ手つきで財布にと掻き戻す。


「なんなんだかな……」


 再び椅子にと座り、コーヒーをその口に付けるガラフ。彼は一つ安堵したかのような声を誰にともなく放つと、そのまま何気なく店のカウンターにその視線を向ける、その時。


「よう、嬢ちゃん」


 二人組の、何か髪を極彩色にと染めている男達が、少女の肩を気安く叩く。


「沢山お金、もってるじゃねえか」

「ちょっと、あんた達……」


 その男達の様子を色をなすリコラ、だがその彼女を無視し、二人組は少女に対してにこやかな笑みを浮かべている。


「ちょっと、お兄さん達とあっちにいかねぇか?」

「イヤ……」

「いや、そう言わずにさあ……」


 その少女が困惑した様子にリコラは、彼女らの間に割って入ろうとした、が。


「やめとけ、リコラ……」

「何でですか、ガラフさん!!」

「俺達には関係のない事だし、それに……」

「ああもう……!!」


 リコラはそのまま、腰の銃を見せつけて男達を追い払おうと身構えたが。


「ギャアァ……!!」

「え、何……?」


 突然、少女の肩に触れていた男がその乗せていた腕から血と、機械油を噴き出させる。


「これって……!!」


 少女の姿はすでに見えない、店員が慌てふためいて男達の元へと駆け寄ると応急処置の手筈を整える。この手の事に慣れているのだろう。


「見えなかったのか、リコラ?」

「見えなかったって、何が……?」

「ふむ……」


 ガラフはそのリコラの問いには無言となり、傷の痛みによって喚いている男達、彼らをじっと見つめていた。

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