歯車仕掛けのアストラリーカ

早起き三文

プロローグ

第1話「空洞の悪魔」

「くそ!!」


 そのままガラフのシャムシールは空を切り死闘の相手である異形の魔神、その巨体が放った複数の光の矢が彼の肩を軽く掠める。


「もう一度だ、レイチェル!!」

「オーケー!!」


 相棒レイチェルから投げつけられた支援の投擲ドーピング弾、それによる加速を我が身に感じながらガラフはそのまま倍速ラッシュの能力に頼り直角にと壁を蹴って、その身を大空洞内部にと飛翔させる。次の狙いは相手の肩。


――グゥウ……――

「決まったか!?」


 しかしガラフは魔神が肩に傷を受けて上げた、狼狽えたような声には油断をしない。そのまま周囲の壁面から発せられる光を受けて青白く輝くシャムシール、それを目にも見えぬ早さで魔神の肩にと、何度も何度も叩きつける。


「ガラフ、ギガンテスからの攻撃がくるわよ!!」


 ガラフと同じく魔神の胴体へその大剣を浴びせている仲間マリージャ、彼女からの声にガラフはその鋼の身体を竦ませると、慌てて自身を下方にと垂直降下させた。その直後に魔神ギガンテスの肩から放出される炎の渦、それが蒼く輝く大空洞の空気を赤く染める。


「はぁ!!」


 ギガンテスのその隙を狙って、レイチェルと仲間の狙撃手が携帯火砲を魔神ギガンテスの頭部、そこを狙って立て続けに撃ち放つ。その内の数本はギガンテスの口部から放たれる光の矢によって迎撃されたが、どうにか相手に損害は与えたようだ。


「次!!」


 そう、自らに発破をかけるように声を挙げるガラフ、彼と仲間の大剣使いマリージャ、そして槍使いの軽戦士が魔神に損害を与えようと、飛翔形態に入る。


「また来るぞ!!」

「応!!」


 そのままガラフは魔神の手のひらから放たれた炎の球を自らの「シールド」で防ぐと、そのまま先程まで斬りつけていた肩の部分、魔神の魔力装置にと再び狙いを定める。その飛び上がるガラフを狙う炎の渦、しかし今度は「シールド」の力を限界にまで上げ、その火勢を大きく減衰させた。


「仕止める!!」


 急上昇したガラフの視線、それの片隅には槍使いバラウが魔神の頭部にと打撃を与えている姿。彼に負けまいとガラフも己に効いている「倍速ラッシュ」のマシン力を活かし、シャムシールによる斬撃を魔神の肩口へと大きく振り上げ、斬りつけた。


「ガラフ!!」


 魔神の肩火炎器を破壊したガラフにと掛けられる怒声、それを受けたガラフは一瞬魔神からその注意を奪われてしまう。


「何の!!」


 そのガラフの脳天真上を通りすがる魔神の豪腕、その風圧を顔を感じながらガラフは、声を掛けてきた大剣使いの女に苛立ったような声を上げたが。


「新手か!?」


 大剣使いの女、マリージャが立ち向かっている相手、今対峙している赤い肌の魔神よりはかなり小柄、しかしそれでも充分に人の二倍はある黒い魔物の姿を見とがめたガラフは、そのまま後方で支援を行っているレイチェル達にと援護を頼みつつ。


「止めをさす!!」

「おう!!」


 仲間の槍使いバラウと共に、その剣を大きく振り上げる。離れた場所からの火砲による一撃が魔神の胴を強く穿ち、悲鳴を上げて怯んだ魔神ギガンテスの首が、光を発するガラフのシャムシールによって一気に両断される。


「よし、次!!」


 そのまま地面にと倒れ伏す巨大魔神、その巨体をレイチェル達はさけながらも、新手と戦っている大剣使いマリージャの支援に回っている。火砲を撃ち尽くしたマシンリム使いはその機械錫杖を思いっきり振り上げ、連続して他者への支援機能を起動させた。


「ドーピング!!」

「ありがたい!!」


 淡い輝きが大剣使いを深く包むと同時にその彼女の動きが一層機敏になる。その勢いのまま剣を振り回す彼女であったが。


「コイツ、強い……!!」


 その彼女マリージャの動きを遥かに上回る程である身のこなしを見せる黒い魔物。その手に巨大な得物ハルバードを構えた魔物の口から何か、黒い霧のような物が大剣使いを追尾する。


「う、うわぁ!!」


 その霧は大剣使いを包みこみ、その漆黒の輝きをもって彼女に掛けられた支援の、それの光を失わせる。そのまま地面にと落下し床に強く打ち付けられる女大剣使い。


「おのれ!!」


 ガラフは一つ雄叫びを上げると、その口から再び「倍速ラッシュ」を己へと掛けつつ、シャムシールをもって黒い魔物へ斬りかからんとその身を強く飛翔させる。怪物の上背を大きく越えながら降り下ろされる一撃、しかしその光景を見て魔物が笑うと同時に、その手から一条の光をガラフにと振り向ける。その光がガラフの身体をかすった途端に、彼の頭の中にと深い雑念がはびこってしまう。


「ガラフ!!」


 レイチェルからの火砲支援を受けている槍使い、雄叫びと共に彼の槍が一気に怪物の顔に向けて放たれる。だが、その槍は振り回されたハルバードによって弾き飛ばされ、そのまま魔物がその口から放った黒い霧、それが槍使いにと襲いかかる。


「あぶない!!」


 レイチェルのその声、槍使いバラウも回避をしようとしたが間に合わず、そのパチリと光が弾ける霧をその顔にとまともに浴びてしまう。激しく苦悶の呻きを上げる槍使い。


倍速ラッシュ!!」


 それを、槍使いの死を確認したガラフは、シャムシールの出力をあげつつ黒い魔物にと剣波を放ち、己が放ったその輝く波動を追って再び剣を振り上げる。剣波はほとんど相手に損害を与えていない。


「!?」


 その時に魔物の身体全体から放たれる黒い炎、それは空間を嘗めるように四方にと疾り、起きあがったばかりの大剣使いが炎に呑まれ、絶叫を上げながら消滅する。


三倍速ハイ・ラッシュ!!」


 ガラフが咄嗟に行った危険域の加速、彼の脚部から鳴り響くギアの音を追尾するかのように黒き魔物の炎は追ってくるが、それを天井スレスレに移動してどうにか振り切るガラフ。しかし。


「きゃあぁー!!」


 レイチェルら後列の二人にはガラフ程の機動性はない。二人も魔物から放たれた炎を回避しようと「エネルギー・バックラー」による防御壁を張ったようである。が、炎はその防御を突き破り、淡い蒸気のような物を発しながらレイチェルらを焼く。


「レイチェル!!」


 目も止まらぬスピード、強烈に加速されたガラフがその身を飛ばし、彼の腕が二人の男女を、レイチェルとダグラスを大きく掴む。しかし。


「くそっ!!」


 その身を軋ませながら大きく飛翔する魔物、彼が先程に倒れ伏した魔神の巨体を飛び越え、そのまま紅く光る眼光をガラフらに投げつつ、その手に持ったハルバードを一振りする。


「ちぃ!!」


 強烈な風圧、それを受けてもガラフはどうにかレイチェルを振り落とさずにすんだが、もう片方の仲間ダグラスはその手から離れてしまう。


「……っ!!」


 その仲間に黒い魔物はヌラヌラと光る牙を突き立て、その肉を搭載されているマシン・リムごと剥ぎ取った。


「ちくしょう!!」


 辺りに赤黒い蒸気が立ち上る中でガラフはどうにかして仲間を助けようとする、光弾を手のひらから放つが照準が上手く合わない。ジャミングをされている。


「……うう」

「レイチェル、しっかりしろ!!」

「助けて、ガラフ……」


 その時、赤い霧の中から飛び出してきた炎の玉、それをガラフは咄嗟に身を捻ってかわしたはいいが、「三倍速ハイ・ラッシュ」の負荷が彼の身体を深く蝕む。戦闘は難しい。


「くそ、こうなっては……!!」


 魔物が連続して放った火球、それが大空洞の天井にと当たり、周囲へと壁面が散らばる中、ガラフは暫しの間歯噛みしたが。


「すまない……!!」


 レイチェルを抱えたまま、残りの仲間を見捨て大空洞の入り口にと身体を泳がせる。不思議と魔物の追撃はこない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る