第3話:謎のダークマター

同時刻、SF第6艦隊。

「通信はまだ回復しないのか!?」

艦のブリッジにベルンハルトの声が響く。地上とつながっていたはずの、今は砂嵐しか流れない画面たちを半ば睨むように見つめる。

「こ、これはこちら側の問題ではなく、あちら側……デュナス側の問題なんです。私たちにはどうしようもないですよ」

ベルンハルトに怒鳴られた士官が肩を縮こまらせて答える。必死にあちこちを操作しているものの、今のところ画面の砂嵐は収まる気配がない。

「と、言うと?どういうことだ」

「デュナスにある何かが妨害電波を発している、ということです」

ベルンハルトは画面を睨みつけたまま考えた。妨害電波だと?デュナスは自然豊かで、SFの計測用機械以外の機械などほとんどない星。そんなところに妨害電波なんかが発生するか?

そこまで考えたところで、ベルンハルトの頭には一つの信じられないような可能性が浮かんだ。

高位のダークマターには妨害電波を纏う奴もいたはずだ。

まさか、そんな奴がデュナスに?

デュナスは滅多に大きなダークマターの出ない星だ。だからこそ、まだ実戦をしたことのない学生たちの卒業試験場にも選ばれている。

でももし、本当にデュナスにそんな危険なダークマターが出ていたら?サティたちは大丈夫か?

「今すぐ私をデュナスに転送しろ」

ベルンハルトが強く言い放つ。

「しかし大佐、パワードスーツなどは……?」

SF上層部の規定の制服姿のベルンハルトに周りの士官たちが提言する。基本的に上層部の者は地上に降りて戦闘することはない。だからパワードスーツなどの戦闘を補助する防具を持っていないのだ。

「そんなものは必要ない。私を誰だと思っている?元第1艦隊所属のスターファイターだぞ」

動揺する士官たちに向かって厳しい声で言い放つ。もし本当に危険なダークマターがいるのなら助けにいかなければ。サティとウェンティが危ない。

「しかし、大佐は何年も前に前線から引退してるんじゃ……」

「わたしが特命令を出す前に従った方が身のためだと思うが?特命令に逆らうのなら、私はお前たちに実力行使ができる」

それでも食い下がる士官たちに向かってベルンハルトが自身のパートナーウェポンであるライフルを突きつける。突きつけられた士官たちが震え上がってコンソールに手を伸ばす。

「や、やります、転送を開始するのでテレポーターへ向かってください」

震えた声で士官が告げる。ベルンハルトはライフルをしまうとテレポーターへと歩いていった。


✳︎


届かない。どうすればいい?

サティは痛む足を庇いつつ考えた。地面から撃つだけではあのダークマターの頭には届かない。木に登れればよかったのだが、先程叩きつけられたせいで思うように動けない。立っているのでさえかなり辛いのだ。

あの怪物がしゃがんでさえくれれば。あと少しで届くのに。サティは他の二人に向く攻撃を打って弾いた。ずっとこうしてはいられない、やがてこちらが力尽きて殺される。

その時、空中に青白い光が走った。サティたち士官学生には見慣れた、テレポーターの光。

一瞬後、ダークマターの頭は何かに撃ち抜かれ、それはそのまま地面に崩れ落ちて消滅した。

「サティ!大丈夫だったか!?」

「ベルンハルトさん!?」

サティとウェンティの声が重なる。ライフルに変形させた手を元に戻しつつベルンハルトが倒れているアックスの方へと歩く。力無いアックスを担ぎ、今度は死んでいるテオの方へ向かう。

「……彼女は」

小さく首を振るとベルンハルトはテオも担ぎ、まだ座り込んでいる二人の方へと歩く。

「すまなかった、通信が途切れた時にもっと早く来れていれば……」

テオとアックスを地面に横たえる。

「ベルンハルトさん、アックスは……」

「彼はまだ生きている。すぐに艦に戻って適切な処置を受ければ問題ないだろう」

心配そうなサティにベルンハルトが答える。辺りの木に穴が開き、斬り付けられた跡がある。かなり激しく戦ったのだろう。

ベルンハルトがテレポーターを起動させ、一行は艦へと帰還した。


✳︎


「大佐、結局何があったんだ?」

第6艦隊の隊長室で、艦隊の隊長であるロディがベルンハルトに訊ねる。

「卒業試験トライアル中に危険度の高いダークマターが出現。試験を受けていた学生が死傷、惑星デュナスの生態系に多少の乱れが生じた」

「死傷、か。未来ある若者を……惜しいな、俺たちの責任だ」

ベルンハルトの言葉にロディがため息をつく。データパッドに証言を打ち込みつつ横に立っているベルンハルトの方を向いた。

「危険度の高いダークマター、か。なぜそんなのがデュナスにいたのかが判明しない限り、あそこは封鎖した方がいいな。人もいない星だし」

ロディの言葉にベルンハルトが深く頷く。彼女はロディにデータパッドを渡すと背を向けてそのまま部屋を出ていった。

後に残されたロディは渡されたデータパッドを見る。トライアルの成績が書かれている。

あの巨大なダークマターを前に、あれだけの時間耐えた。本来の合格基準ではないが、もちろん文句無しの合格だ。

画面をスライドすると、今回トライアルを受けた四人の情報が出てきた。

サティ、19歳。今回のトライアルにより軽傷を負うが無事帰還。

ウェンティ、11歳。サティと同じく軽傷を負うが無事帰還。

アックス、18歳。重傷を負うが帰還。命に別状はない。

テオ、20歳。今回のトライアルで死亡。

ロディがさらに画面を切り替え、ベルンハルトが上陸した時点での辺りの様子の映像が投影される。激しい戦いの跡だ。

「……これは、上層部に報告しなければいけないな」

なぜか、報告するのに気が乗らなかった。

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